Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2015年09月16日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート ⑬

千曲川ワインアカデミー開講しました

5月12日から「千曲川ワインアカデミー」が開講しました。これから来年の3月までの1年間、週2回合計60日の栽培醸造経営講座がはじまります。

第一期生は、24名(男子21名、女子3名)。24歳から64歳まで、平均年齢は41歳です。すでに県内に畑をつくってワインぶどうの栽培をはじめている人、農地は持っているがこれから苗木を植えようという人、まだ移住していないが通学しながら農地を探そうという人など、それぞれに現在の段階は異なりますが、みんな、ワインづくりに人生を賭けようとする情熱だけは誰にも負けない、未来のワイングロワーたちばかりです。

毎週火曜日と水曜日に講座があるので、会社勤めの片手間に、というわけにはいかず、いまの仕事を辞めてワイン農業に飛び込む覚悟をもたなければ参加できません。それだけにみんな強い意欲をもった人たちで、東京や名古屋や金沢から毎週一泊二日で通う人や、京都からこのために移住してきた人たちなど、全国から精鋭が集まりました。応募者の中には、さすがに通学は難しいとあきらめた沖縄や北海道の在住者や、直前になって上司から慰留されて辞表を引っ込めた公務員など、涙を飲んで断念した人たちも数多くいました。

定員の倍を超える応募者には、現在の状況や将来の計画のほかに、人生のどこでワインに出会ってこの道を選ぼうとしたのか、という設問に答えてもらって選考の参考にしたのですが、みんなそれぞれに語り尽くせない物語を持っているようでした。が、そうした応募者の多くが、「ブドウを植えてワインをつくるということが、日本でできるとは思わなかった。しかもそれをサポートする行政や民間の組織が存在するとは知らなかった」という感想を記していたのが印象的でした。

そうです。とうとう、日本もそういう時代になったのです。今後「千曲川ワインアカデミー」からその活動に関する情報がどんどん発信されていけば、ますます多くの人がワインづくりに興味を持ちはじめるに違いありません。それだけに、第一期生たちをしっかりサポートして、彼ら彼女らをその先駆者として夢の実現に導かなければ、と覚悟をあらたにしています。

まずは飲酒運転防止講習から

5月12日の開講日には、私がまず開講の趣旨と受講の心構えを述べた後、飲酒運転防止講習をおこないました。これはカリキュラムづくりに着手した最初のときから考えていたことで、お酒をつくる仕事に携わる者は、まずこのことを徹底して意識に叩き込まなくてはならない。もちろん免許事業である酒類製造では、飲酒運転をしたら製造免許が取り上げられる、という実際的なリスクもあるのですが、それ以上に、みんなが幸せになるために飲むワインで人が悲しむようなことがあってはならない、という、つくる人も飲む人も含めたワインとの付き合いかたをもう一度認識しよう、ということでもあるのです。

上田警察署に相談したところ、大がかりなシミュレーションの機械を何台も持ち込んで、無償で講習をやってくれました。アルコールが入る前と後での反応スピードの違い、自転車の運転や歩行者の道路横断の映像シミュレーションなど、ゲームとしても面白いものが多く、遊び感覚でやりながらも、こうした体験をすることは飲酒運転に対する意識を高めるために有益だと感じました。

というわけで、1日目は最後にヴィラデストへの見学訪問、2日目からは常任講師の若生ゆき絵さんによる「ブドウの生理と形態」という授業を皮切りに、本格的な講義がスタートしました。1期目のテーマは栽培が中心ですが、メルシャン椀子ヴィンヤードやマンズワイン小諸工場を訪ねての研修や、北海道から土壌分析の専門家を招いての野外実習など、教室を離れて現場を踏む実践的なトレーニングもふんだんに交えた、中身の濃い授業が続きます。

ビジネスサロンの連続講座も

アカデミーのほかに、ビジネスサロンの連続講座も開始しました。こちらはワイン産業をビジネスとして捉える企業を中心に会員を募集しており、「千曲川ワインバレー」の中心地として発展するこの地域が将来どのような可能性をもっているか、それぞれの講師が専門的に解説する講座です。講義が終わったあとは講師を囲んでのワイン会……と、こちらも上々のスタートを切りました。

突貫工事で工期ギリギリに完成した建物を、連休前の開店ギリギリで内装を整え、アカデミーの開講も所定の期日ギリギリで準備をし……ギリギリ続きで4月から5月にかけては連日てんてこ舞いの忙しさでしたが、わけもわからず突っ走っているうちに少しずつペースがつかめてきた、というところでしょうか。

6月8日には、長野県原産地呼称認定のための官能審査が、アルカンヴィーニュを会場としておこなわれました。これは年2回、原産地呼称管理制度にエントリーしたワインを官能審査委員が審査してその合否を判定する審査会で、ここ2年間は東京の田崎ワインサロンでおこなわれてきました。それを、アルカンヴィーニュの完成を機に再び長野県内で実施しようということになり、今回の運びとなったのです。

約50種類のワインとシードルを、銘柄がわからないようにボトル全体を包んで隠し、決められた順にグラスに注いでずらりと居並ぶ審査委員の前に運ぶと、審査委員はそれをテイスティングして素早く点数をつけていく……審査委員長の田崎真也氏をはじめとする、トップソムリエからワイン評論家、ワインジャーナリストなど日本ワイン界を代表するテイスターたちの熟練の技は素早く的確で、そのペースに合わせて一人当たり50杯のグラスを一瞬も遅れないように運ぶのは、まるでスポーツの大会を見ているような緊張とスピード感に溢れていました。

私は以前、長野県の工業試験場などでおこなわれた官能審査(その頃はずらりと並べたボトルの間を審査委員が歩きながらテイスティングするやりかたでした)も、また田崎ワインサロンでの現行のやりかたの官能審査も見ていますが、さすがに自分の本拠地でやる審査会には格別の感慨がありました。県から派遣された職員の頑張りと長野ワイン応援団メンバーの協力のおかげで、無事に終了することができてホッとしています。

KURA⑬1(上)北海道から来てくださった土壌学者、丹羽先生の野外実習に参加した受講生たち。

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福田早大教授のビジネスサロン講座(左)と、長野県原産地呼称管理委員会の官能審査の風景(右)

 

(KURA 2015年7月号)