Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2015年11月22日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート ⑯

ワイン祭りは花盛り

いよいよはじまる収穫の季節。せっかく乾いて暑かった夏が、お盆が終ることから急に失速して、早過ぎる秋雨前線に居座られて日照不足。ブドウの完熟にはこれからが大事な時期なのにちょっと心配ですが、それでも収穫と仕込みの前に景気をつけようと、各地で賑やかにワイン祭りのイベントが開かれました。

ワインのお祭りというと、仕込み作業が一段落した後に収穫祭としておこなうイメージが一般的かもしれませんが、長野県は冷涼なため収穫時期が10月に入る地域が多く、醸造の仕事が一段落する11月中頃には寒くなってしまうのと、小さなワイナリーばかりなのでその時期に祭りの準備をするには人手が足りない、などの理由があるのです。

マンズワイン小諸工場の収穫祭は毎年10月の末頃に開かれて1万人近い来場者を集めますし、ヴィラデストは寒くても11月8日にワイナリー祭りをおこないますが、単独の催しならともかく、地域の各ワイナリーが一堂に会して催すワインフェスタとなると、どうしても収穫と仕込みで忙しくなる時期の直前、8月の末から9月の上旬のあいだがギリギリのタイミングとなるのです。

長野市・長野駅前の南千歳公園で8月21日から23日にわたっておこなわれた「ワインガーデンin長野」は、21日は夜からの予約制で料理6品とワインが飲み放題。22~23日は昨年同様チケット制で、フードとワインを各ブースで購入する方式でした。今年で2回目の開催になりますが、昨年を上回る盛況で、これからは毎年恒例のイベントとして定着しそうです。

9月3日には、東京の『銀座NAGANO』で、ヴィラデストワイナリーのフェアが開かれました。これは『銀座NAGANO』がこの春からはじめた「ワイナリーがやって来た」と銘打つシリーズイベントで、第1回が中野市の「たかやしろファーム&ワイナリー」、第2回が須坂市の「楠ワイナリー」、第3回が東御市の「リュードヴァン」。今回が4回目で、ヴィラデストワイナリーから醸造家の小西とオーナーの私が参加しました。

このシリーズは、最初の90分が入場自由の試飲会、後半の90分は予約制で、そのワイナリーのワインとそれに合った軽食を楽しみながら作り手のトークを聴く……という構成になっています。今回も20名の予約はすぐに一杯になりましたが、東京にいながら信州の空気が感じられるイベントとして、ますます人気が高まると思います。

東御ワインフェスタ

9月5日は、東御ワインフェスタです。今年で、4回目。昨年までの3年間は東御市の文化会館をメイン会場として、市内のワイナリー3社を循環するシャトルバスを運行するなど、2日間にわたって開催しましたが、今年は、もう少し小さい会場で、1日間だけの開催となりました。というのも、去年までは「地域発!元気づくり支援金」という県からの補助金(3年間を限度として支給)をもらっていたので資金的に余裕がありましたが、今年からは自主財源での運営を余儀なくされ、市内の企業や商工会、農協などの支援や協賛を得てようやく開催に漕ぎつけた、という事情があったのです。

いま、日本ワインの人気が上昇するに連れ、全国各地で、地域の小規模ワイナリーを何社か集めてワイン祭りのようなイベントを開催することが増えました。安価なワインをたくさんつくっている大きなメーカーなら無料試飲をしてもらうこともできるでしょうし、広告宣伝活動の一環として予算を組むことも可能でしょう。が、個人で立ち上げたような新しい日本ワインのメーカーの場合、試飲は有料でお願いするしかないのですが、そのとき、有料試飲の価格をワイナリーに損が出ないように設定すれば、お客さんの支払う額が大きくなるので来場者数が増えません。かといって安い価格でサービスすれば、ワイナリーの負担が大きくなってイベントは長続きしない。もちろん補助金はそう簡単にもらえませんし、企業からの協賛金もなかなか集まらないので、どこのケースでも開催費用の調達には悩んでいるのです。

今年の東御ワインフェスタの会場は、しなの鉄道の田中駅から歩いて行ける距離にある、農協の(結婚式などの集まりができる)施設を借りておこないました。以前の会場よりは狭いのですが、駅から徒歩で往復できること、商店街に近いことなど、かえって有利な面もあり、また、たまたま日程が「アトリエ・ド・フロマージュ」のチーズ祭りと重なったことから、会場と「アトリエ・ド・フロマージュ」を往復するシャトルバスを動かすこともできたので、狭いながらも賑やかな、充実した催しとなりました。来場者数は、おそらく1000人を超えていたと思います。

大手メーカーの収穫祭はこれまでもおこなわれて来ましたが、こんなふうに各地で新しいかたちのワインフェスタの試みが盛んです。いまのところ、そういうイベントに集まるのは日頃から日本ワインに関心を抱いている愛好家が多いのですが、もっと地元の住民がワインに親しんでフェスタに集まるようになれば、花火大会に寄付をするのと同じようにワイン祭りに協賛金を出す地元の企業も増え、地域のお祭りとして定着するようになるでしょう。今回の東御ワインフェスタは、そんな予感を抱かせる、アットホームな雰囲気が素敵でした。

これからのフェスタのスタイル

来年の2月7日には、東京の帝国ホテルで「NAGANO WINE FES」が開催される予定です。東京開催は3回目、帝国ホテルは今年の1月24日に続いて2回目になりますが、地元に住民中心のワイン祭りを定着させる一方、たくさんの人と注目が集まる場所に進出してのプロモーション活動も大切です。こうした催しは回を重ねることによってじわじわと効果が出るものなので、これからも長く続くことを願っています。

東御市のワインフェスタを地元のお祭りとして根づかせる一方、8市町村が合体した広域ワイン特区「千曲川ワインバレー東地区」を全体でPRするためには、地域から飛び出して、たとえば軽井沢あたりで華やかなワイン祭りをやるのもよいかもしれません。

千曲川ワインバレー東地区は、軽井沢から1時間くらいで行けるちょうどよい距離にあるので、観光客や別荘の住民がちょっと気分を変えるために訪ねるには格好の目的地。軽井沢町から御代田町、小諸市、東御市、上田市……と続く広域道路「浅間サンライン」は、「千曲川ワイン街道」としてワイナリー観光のメインルートになる可能性を秘めています。新幹線の延伸で金沢方面から長野県に入る観光客に一番の人気を誇る軽井沢の知名度を活用して、多くの人に「千曲川ワインバレー東地区」を知ってもらう作戦を練りたいと思います。

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長野市のフェスタは夜まで盛り上がる 銀座NAGANOでワイナリーの出前

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今年の東御ワインフェスタは、商店街に近い農協の施設を借りて、いい雰囲気