Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2016年01月20日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート ⑲

信州ワインバレー構想3周年……2016年の初夢は?

長野県の「信州ワインバレー構想」が発表されたのは2013年1月22日。いまからちょうど3年前のことでした。同年6月にはそのための推進協議会が設立され、本格的な活動を開始しました。

この3年間のあいだに、県内で新設されたワイナリーは7軒、新たにワイン特区を取得した市町村は5市3町2村(広域ワイン特区による再申請を含む)となり、高山村と合わせて人口40万人の住む地域がワイン特区によってカバーされることになりました。

構想の実現に向けて、やるべきことはまだまだ山積していますが、ひとまず最初の3年間で、ブドウの栽培からはじめる小規模(インディーズ)ワイナリーを集積する、という目標をめざして進むための、地ならしだけはできた、というところでしょうか。

「玉村さんが来てから、みんながワイン、ワインって言うようになっちゃって……」
「……困りましたか?」
「いや、でも、こんなふうになるなんて、最初は想像していなかったから」

東御市役所に花岡市長をお訪ねして、新春のインタビューをお願いしました。花岡さんとは、市長になる以前からもう20年以上のおつきあいなので、ざっくばらんに話が進みます。ワインの振興に関しては、私がいつも、
「もっと市は積極的にやってほしい。まだまだ支援が足りない。東御市の未来を創造するワイン産業がさらに発展するように協力してください」
と申し入れる立場なので、市長は最初から防戦の構えです。

「おかげさまで、市長から周辺市町村に呼びかけていただいて、千曲川ワインバレー東地区という合同広域特区が実現しました。東御市の人口は3万人ですが、広域化した8市町村の人口は合計すると32万人です。これだけの地域がワイン産地としてひとまとまりになると、観光の面からも、この地域に投資をしようという企業にとっても、ターゲットが明確になって先の展望が開けます」
「最近は全国どこへ行っても、東御市というと、ワインですね、と言われるようになったので、ワイン産業の振興は、やはり東御市が中心になって進めていかなければならないだろうと思います」

「御堂地区の、30ヘクタールのヴィンヤード計画もありますね」
「市は、標高の高いところにある荒廃地を再生利用するには、ワインぶどうを植えてもらうのがよいと考えており、県営の事業として今年から開墾に着手する予定です。地権者のみなさまの同意もほぼ得られたようなので、3年後には植栽がはじまるでしょう」
「30ヘクタールの土地がブドウ畑になったら、6~7年後までに20万本から30万本のワインが醸造できる新しいワイナリーをつくる必要があります。ワイナリーの建設計画はあるのですか」
「まだ何も決まっていないので、市民の意見を広く伺いながら、これからオープンに議論していきたいと思います」

「新幹線からも高速道路からも見える丘の上に一面のブドウ畑ができるわけですから、観光の面でも大きなインパクトがあります。地域経済の活性化という点でもさまざまな影響を与えるでしょうから、市民のみんなに関心をもっていただいて、それこそワインを飲みながら、いろいろなアイデアを出してもらえたらいいですね」
「すみません、私だけワインが飲めなくて……」
「市長は体質的にお酒を受け付けないのですね。ウソかと思っていたら(笑)、本当に一滴も飲めないそうで、びっくりしました」
「でも、ワイン振興はちゃんとやりますから」
行政の組織は、市でも県でも、私たちが期待するほど迅速には動けず、融通も利かないものですが、市民が声を出していけば対応してくれます。2016年は、私たちのほうから積極的に「ワインシティー」の未来像を描いていきたいと思います。

しなの鉄道の田中駅から近い商店街の一角に、古い木造3階建ての洋館があります。大正時代に建てられた美しい建物ですが、現在は空き家になっているそうです。この地が養蚕製糸業で栄えた頃、全国からやってくる関係者を接待するための場として使われたもので、「シルクからワインへ」という歴史を偲ぶ貴重な遺産なのですが、修復再生には巨額の費用がかかりそうです。なんとか資金を募って、ミュージアムとしてでも再生できないかと考えているのですが……。

塩尻駅前には塩尻産のワインを飲み較べることのできるイタリアン・ワインバーがあり、長野駅構内にある試飲コーナーでは県内各社のワイン(と日本酒)が飲めますが、千曲川ワインバレー東地区には、東御市内にも近隣の市町村にも地域のブランドを一堂に揃えて販売するワイン専門店はなく、ワイナリー観光のインフォメーションセンターもありません。そんな「ポータルサイト(玄関口となる施設)」を、新幹線の軽井沢駅や上田駅、しなの鉄道の田中駅など、お酒を飲んでも電車に乗って帰れる場所に、ぜひつくりたいと思います。

信州大学に今春から新設される経法学部では、東大などから特任教授を招聘して、「長野ワインを世界一にする」というプロジェクトがスタートするそうです。長野県のワイン大使をお願いしている鹿取みゆきさんも、特任教授として参加します。また、信大の人文学部でも「ワイン研究会」が発足し、文学や社会学からワインにアプローチするそうです。こうした大学によるワイン研究が本格化すると、長野県のワイン産業振興の動きにも厚みが出てくることが期待されます。

日本ワイン農業研究所「アルカンヴィーニュ」でおこなわれている「千曲川ワインアカデミー」は、24名の第一期生のほぼ全員が自分の畑を見つけて苗木を注文し、これから数年のうちにワイナリーを建てる目標に向かって巣立ちます。第二期の受講生募集は1月から開始しますが、こんどはどんなワイングロワー志望者が集まってくるでしょうか。

このような新規参入者をサポートするアルカンヴィーニュの活動に賛同した県内外の財界人が、応援団として「アルカンヴィーニュ・フォーラム(千曲川ワイン倶楽部)」を結成することになりました。いずれこの活動の中から、この地域に本格的な投資をしようとする企業があらわれ、ホテルやレストランなどのワインリゾートをつくる事業開発がおこなわれるのではないかと思います。

2016年は、次なる進化がスタートする1年になりそうです。


東御市の市長室で、花岡市長にインタビューしました。

KURA⑲3
東上館の正面入口。大正9年に竣工した和洋折衷建築です。  裏には2階建ての土蔵が。