Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2016年02月20日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート ⑳

< 信濃にやか「長野県をワイン王国にするためにお知恵拝借」 その①>

 

玉村 「信濃にやか」は創刊以来断続的に続いている『KURA』伝

統の(笑)企画ですが、きょうは、長野県をワイン王国にするにはどうしたらよいか、というテーマで、みなさんのお知恵を拝借したいと思ってお集まりいただきました。
柳沢 じゃあ、ワインで乾杯ね。
玉村 これはヴィラデストのゲヴュルツトラミネールです。
市村 独特の香りがありますね。
玉村 よく、ライチーの香りとかいわれます。
山崎 ホントだ。もうひとつの白ワインは?
玉村 ノーザンアルプスヴィンヤードのシャルドネです。大町の若林さんが育てたブドウで、これは一昨年の収穫だからヴィラデストが委託

醸造したものです。去年の収穫からは新しい自分のワイナリーで彼自身が醸造したものになります。
柳沢 そうやって、順に自立していくわけね。
玉村 そのための基盤となるワイナリーと、栽培醸造の技術と経営の知識を教えるアカデミーをつくろうと考えたわけです。

 

山崎 ところで、玉さんが『千曲川ワインバレー』という本を書いたのは、いつだっけ。
玉村 2013年の3月です。その年の1月に「信州ワインバレー構想」が発表され、6月に推進協議会が発足し、同じ頃から、その本に書

いた「千曲川ワインアカデミー」をつくる準備をはじめた。で、2014年から1年かけて工事をした「アルカンヴィーニュ」というワイナリーが完成した2015年の春から、アカデミーを開講しました。ここまでがちょうど3年。長野県をワイン王国にするための、地ならしが済んだところです。今年から県庁に「日本酒ワイン振興室」という部署ができるそうですから、これから3年が本当の勝負だと思っています。
加瀬 それなら、まず記念日をつくることですよ。
玉村 加瀬さんは日本記念日協会の代表だから。
加瀬 いや、記念日というのは、本当にビジネスチャ

ンスにつながるんですよ。みんなの意識も変わるし、いろいろなイベントもできる。ホームページのアクセスもポーンと上がります。とくに、食べものや飲みものの記念日は、みなさんうまく活用していますね
玉村 いまワイン関係の記念日は?
加瀬 日本酒は多いけど、ワインは少ないですね。「イタリアワインの日」と「スペインワインの日」はありますが。
玉村 じゃあ、「NAGANO WINEの日」も、すぐつくらないと。
市村 日本では、産業振興というとすぐ生産組合がどうのという話になるけど、記念日というのは生産者だけでなく、消費者もいっしょに盛り上がれるのがいいですね。
柳沢 ハロウィンだってそうよね。
山崎 経済効果が凄い。

 

市村 ワインを売る場合に、マリアージュというか、料理との組み合わせについて、メーカーのほうからもっと積極的に情報を提供したらいいと思うんだけど。
玉村 ……でも、たとえばこのワインは焼き鳥に合います、と書くと、焼き鳥がないと飲めないんだ、と思ってしまう人もいるので(笑)、難しいところではありますが。
加瀬 この正月に、酒蔵からもらった酒粕をアテにして安いワインを飲んだら、凄くおいしかったのね。長野県て、発酵食文化でしょ。味噌とか糀とかを使った料理って、ワインに合うんじゃないですか。
柳沢 それは、いいわね。そういう食材を使った料理で長野ワインの会をやればいいのよ。
加瀬 ワインと合わせることで、伝統的な発酵食品にもまた新しい可能性が見つかるかもしれないし。
山崎 『銀座NAGANO』は、カウンターがあって、試飲ができるでしょ。馬肉のジャーキーや野沢菜を肴に飲んだらおいしいかった。あそこはカウンターにいる人がいろいろ説明してくれるからいいね。
玉村 いま『銀座NAGANO』以外には、長野県の銘柄を揃えて売っているワインショップは無きに等しいんです。県内でも試飲ができる場所は限られていますから、今年それをつくろうとしています。ワインが買えて試飲もできる、ワイナリー観光のインフォメーションセンターも兼ねた店が、軽井沢駅構内と、東御市田中駅の近くに、おそらく今年中にできると思います。
山崎 イタリアなんか、どこへ行ってもグラス一杯300円以内で飲めるけど、日本ワインは高いよね。
玉村 それは、まだワイン生産のインフラができていないから。新しくはじめようとする人は、全部の機械設備を自分で用意しなければならない。ワイナリーがもっと増えてくれば、ボトリングだけやる会社ができたり、貯蔵庫をレンタルする会社ができたり、分業が発達するのでコストが下がる。イタリアやチリのワインが安いのは歴史が古いからです。

加瀬 アカデミーの生徒さんは、みんな、ワイナリーをつくりたいと思っている人ですか?
玉村 ほとんどがそうですね。
加瀬 ワイナリーをつくりたい人たちは、販売方法についても考えているのだろうか。
玉村 そういう講義もしています。
加瀬 新しいことをやるのなら、新しい販売方法や、新しいラベルを考える必要がありますね。たとえば、もっと大胆な、それ自体がアートとして評価されるようなラベルがあってもいい。そのワインが美術館で試飲できるとか。
玉村 いま、自由なデザインのラベルも結構ありますよね。
加瀬 若いアーティストに描かせるとか?
柳沢 私は、若くないけど(笑)、日本酒のラベルを描いたことがありますよ。よく売れたみたい。
加瀬 ワインも日本酒も、あんまり斬新なラベルを見たことないな。
玉村 小規模ワイナリーばかりで、生産量が少ないから……。
加瀬 ロゴマークやデザインの力というのは、みんなが考えるよりずっと大きいものです。少量生産でも、みんなが知っていて、でも手に入らない、というならいいけど、最初から知られていないのでは意味がない。
玉村 そのためにも、ワイナリーをつくる人だけでなく、デザインをする人やPRをする人、販売のコーディネートをする人など、周辺の人材が同じ世代の中からもっと出てくることを期待しています。
加瀬 これって較べていいかどうかわからないけど、乃木坂46をどう売り出すかという戦略を立てたとき、ただ歌がうまいとか踊りが上手だとかいうのではダメで、いかに自分の志や生い立ちを物語として伝えることができるか、その表現力が大事なのだ、という話になった。
市村 私がマリアージュ云々といったのもそのことで、自分のつくっているワインの特徴を、単なる自己主張じゃなくて、それこそ、どういうつくり方をしているからこういう料理に合うんだ、とか、冷静かつ客観的に説明することが大事なのだと。
玉村 消費者は、物語を求めていますからね。
加瀬 そうすると、乃木坂46でもね、生駒里奈ちゃんとか、そういうことを自覚して、自分からしっかり表現をすることができる子が育ってくるんですよ。
玉村 千曲川ワインアカデミーでも、
自分はなぜワインにそれほど惹かれたのか、どんな土地に暮らして、どんな品種のブドウで、どんなワインをつくりたいのか、説得力のある苦労話を聞かせることができるようにと指導しています。
柳沢 そんな苦労話を聞かせられたら、少しくらい高くても買っちゃうわよね(笑)。

KURA⑳1
善光寺参道パティオ大門「信州プレミアムSHOP」2階のダイナー「PEAK’s」にて

市村次夫さん 小布施堂社長 桝一酒造社長

市村次夫さん
小布施堂社長
桝一酒造社長

山崎陽一さん 写真家 東京都羽村市議

山崎陽一さん
写真家
東京都羽村市議

加瀬清志さん 放送作家 日本記念日協会代表

加瀬清志さん
放送作家
日本記念日協会代表

柳沢京子さん 切り絵作家 さくら国際高校副校長

柳沢京子さん
切り絵作家
さくら国際高校副校長