Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2015年08月26日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート ⑩

ただいま突貫工事進行中 

建設中の新しいワイナリーが、いよいよ完成に近づきました。工事がはじまったのが、昨年の7月。本当はもっと早くはじめたかったのですが、補助金の申請や農地転用の手続き、業者の入札や地盤の改良など、着手するまでにかなりの時間を費やしました。しかも、東京オリンピックの影響で建設業界は大忙しのようで、資材や人材を確保するのが難しいなど、その影響は地方にも及んでいます。そのため、ようやくスタートした工事も思うように進まず、予定はどんどん遅れていきました。

最初は、10月末か11月の初めには上棟式を終え、年内には2階の外壁まで張って、年明けから内装にとりかかろう……と話し合っていたのですが、11月になっても、12月が近づいても、2階の部分は立ち上がってきません。まず基礎の土台をつくり、それから工場の床面、外壁、天井など、1階部分はすべてRC(鉄筋コンクリート)造なので、手間と時間がかかるのです。ようやく1階の躯体ができあがり、2階の木造部分に取りかかることができたのは、12月もなかばを過ぎる頃でした。これでは、とても上棟式などやっている余裕がありません。なんとか柱を立ち上げて屋根組みをつくり、その上をビニールシートで覆って雨雪を凌げる状態になったのが、12月の30日……暮れも押し詰まった年内最後の仕事日でした。

年が明けると、木造の工事はコンクリート打ちの作業と較べるとはるかに早いペースで進みましたが、それでもつい最近まで、本当に3月末までに完成するのか、半分は信じられない状態が続いていたのです。最後はまさしく突貫工事。おおぜいの職人さんたちが入れ替わり立ち代り現場を出入りして、何箇所もの工事が同時に進められました。みんな本当によく頑張ってくれたと思います。いま思うと、なんとか期日内に完成まで漕ぎつけることができたのは、奇跡のような出来事でした。

アカデミーのカリキュラム

工事の進捗を待つ間も、千曲川ワインアカデミーの開講準備は進められました。こちらのほうも、それほど順調に行ったわけではありません。講義に使うテキストは、誰に書いてもらったらよいだろう。年間のカリキュラムをつくることはできたとしても、実際に講義をしてくれる講師はどうやって揃えたらよいのだろう……。

テキストについては、フランスの国家資格課程の教科書やリンカーン大学(ニュージーランド)の講義録を手に入れて調べましたが、年間60日と決められたアカデミーの講義では、大学のフルタイム2年間の教程をそのまま参考にするわけにはいきません。もちろん日本語で書かれた専門書はたくさんありますが、実践に役立つ具体的な知識と世界の最新情報は、インターネットを検索すれば収集することができますが、すでにある本からは得られないのが実情です。フランスでもニュージーランドでも、授業はパワーポイントなどを使って進めながら多彩な実習や研修と組み合わせ、参考書は各自が購読する……というスタイルでやっているようでした。

テキストだけでなく、カリキュラムや講師についても、伝手を頼っていろいろな人に相談をもちかけました。が、プロジェクトの趣旨に賛成して快く協力すると言ってくれる人は多くても、みんな忙しい人ばかりなので、中心になって企画を立ててもらうわけにはいきません。とはいえ私ひとりであれこれ考えていても埒が明かず、いたずらに時間が過ぎていきました。

事態が動き出したのは、8月に入る頃でしょうか、長野県のワイン関連の仕事もいろいろお願いしているジャーナリストの鹿取みゆきさんに相談したところ、いま日本ワインにとって後進の世代を育てることがなによりも大事だと、超多忙な日程を割いて協力者の人選を進めてくれたのです。そして、諏訪在住の若生ゆき絵さん、函館のワイナリー『農楽蔵』の佐々木賢・佐々木佳津子さん夫妻、山梨で個人ワイナリーとワイン塾を開いている小山田幸紀さんなど、第一線の実力者たちを、アカデミーの運営委員として開講の準備をするチームに引き入れてくれました。

いま、カリキュラムの作成は最終段階に入っています。講師として参加してくれる方々は、上記のメンバーのほか、日本有数の栽培醸造家やワイナリー経営者、大学の研究者や醸造機器メーカーの専門家、それに公的な機関からも、独立行政法人「酒類総合研究所」や、長野県農政部などの協力を得られることになりました。最初の頃の不安は消え、いまは日本でおそらく最初の本格的な実践教育ができる講座が開けそうだという、期待がいっぱいに膨らんでいます。

受講者は、実習もあるので定員は20名としました。講義がある日は火曜日と水曜日なので、通学できる範囲に住んでいるか、あるいはそのために移住してくるか、その意味ではハードルが高いのでどうかと思いましたが、ホームページに掲載しただけであっというまに40名を超える応募がありました。この号が出る頃には、第一期生のメンバーが決まっていると思いますが、どの人も人生を賭してブドウ栽培とワイン醸造の世界に飛び込もうという、「半端ナイ」決意を持った人ばかりです。彼らと彼女らが、日本のこれからのワインと、農業と、そして新しいライフスタイルをつくっていく、先駆けになるのではないか……と私は期待しています。

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完成間近いアルカンヴィーニュと、小諸の中棚荘に泊り込みでカリキュラムを検討する運営委員。

(KURA 2015年5月号)