Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2015年07月01日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート①

地球温暖化という現象 

4月20日(日)、塩尻駅前の地域交流センターで、「塩尻ワインの日一周年記念イベント」と銘打つ催しがおこなわれました。私は第一部の「記念トークショー」で、気象予報士の森田正光さんとともに壇上に上がり、塩尻ワインの未来を気象予測とともに検証する、というテーマで話をしました。いや、話をしたというより、私はただ森田さんの軽妙な解説を聴衆のみなさんといっしょに感心しながら聞いていただけですが、図表や図版を巧みに使った森田さんの解説は、さすがに説得力のあるものでした。

森田さんは、まず長野県の平均気温や日照時間を示し、とくに塩尻を中心とする中信地区と東御市・上田市のある東信地区が気候的に恵まれており、フランスのボルドーやブルゴーニュにも匹敵すると指摘、現時点では北海道などよりはるかに有利なポジションにあることを示しました。そして、ここからが本題なのですが、2億年前の恐竜時代に遡って地球温暖化のメカニズムをわかりやすく説明してくれました。

2億年前、地球は温暖で、炭酸ガスCO2 が大量に発生して植物が力強く生い繁っていた。そのため植物を食べる小動物が増え、さらにその小動物を食べる大きな動物が栄え、とうとう恐竜のような大型獣が登場した……が、その後、隕石の衝突などの影響で地球が冷え込むと、それらの植物や動物たちは死に絶え、大量のCO2 とともに死骸となって地中に埋没してしまった。そのCO2 が現代になって化石燃料として掘り返され、どんどん大気中に放出されているのが、いまの温暖化という現象なのだ……というのです。

現在の東京の平均気温は、15.9℃。これが100年後には2度から3度上昇し、現在の鹿児島並み(18.3℃)になると予想されているそうです。東京と鹿児島は南北の緯度で距離を測ると460キロ離れていますから、1年間で4600メートルも気候帯が移動する計算になるわけです。

CO2 が増えることは植物にとってはよいことなので、ゆっくり時間をかけて温暖化するならまだしも、このペースはあまりにも急過ぎます。ヒトが4600メートルを移動するのに要する時間が1時間余りなのに対し、植物はマツで3年、クルミで10~15年、モミに至っては100年から150年もかかりますから、気候の変化に追いつくことができません。森田さんは、今後も異常気象、あるいは極端な気候が続く怖れがあるだろう、と警告しました。

NAGANO WINE 好評の秘密

地球温暖化は、農業に携わる人にとってきわめて重要な意味を持ちます。
長野県産のワインが近年とみに好評を得ていることの理由のひとつに、温暖化による気温の上昇を挙げる人が多くいます。夏の異常な高温により、夜温が下がらずぶどうの品質維持に苦労している山梨県に対して、平均して耕地の標高が高い長野県は、ブドウにとって必要な昼夜の温度差が10度前後もあるので、相対的に有利な条件に恵まれているのです。それが長野県産ワインNAGANO WINE 好評の秘密だ、というのですが、もちろん温暖化はよいことばかりでなく、雨量の増加、強風や竜巻などの発生頻度の増加、不順な気温変化など、従来のやり方では対応できない現象も少なくありません。とくに今年は、中信から東信にかけての一帯は記録的な大雪で膨大な被害を受けたので、人びとの天候への関心はいやがうえにも高まっていました。塩尻市のこの日のイベントは、その意味でも実にタイムリーな企画であったといえるでしょう。

桔梗ヶ原というブランド

塩尻市は、明治時代からの古い歴史をもつ、長野県のみならず日本におけるワイン生産の先進地で、「桔梗ヶ原」という地名が世界に知られるブランドになっていることは、説明するまでもないと思います。この日のイベントでも、市長や市議会議長から、皇居の園遊会で皇太子さまが「桔梗ヶ原ワイン」をご存知だとおっしゃった、という話題が紹介されて盛り上がりました。

標高が700メートルを超える桔梗ヶ原は、かつては寒過ぎてワインぶどうの栽培が難しい土地でした。とくに欧州系のワイン専用品種は寒さに弱く苦労をしましたが、五一ワインの林父子を初めとする先人たちがさまざまな工夫と努力を重ね、とうとう上質なメルローを栽培することに成功したのです。もちろんその成功は不屈の努力の賜物にほかなりませんが、一方では、その努力を地球温暖化による平均気温の上昇が後押ししたことも否めないでしょう。

地球温暖化により、ボルドーの銘醸地は20年後には壊滅するだろう、と予言する人もいるくらいです。この先、桔梗ヶ原メルローは温暖化とともによりボディーのある力強いワインになるでしょうし、長野県の場合はさらに標高の高い土地を探すこともできるので、ボルドーより長く産地として生き残ることができるのではないでしょうか。

それにしても、塩尻市のワイン振興に関しては、そのアクションの素早さにいつも感心します。市のブランド観光課という部署が率先してワイン振興を牽引しているからこそできることで、長野県の他の市町村には及びもつかない実行力を示しています。

信州ワインバレー構想の行方

長野県は、県産ワインのブランド化をめざす「信州ワインバレー構想」をまとめようと2012年8月から準備のための研究会をスタートさせ、2013年1月22日に構想を発表、2013年6月12日に「信州ワインバレー推進協議会」を発足させました。「ワインの日」を制定しよう、というアイデアはその研究会でも提案されたのですが、県がなにも動きを示さないうちに塩尻市がいち早く反応して、昨年の4月に「塩尻ワインの日」を制定したのです。20日をワインの日としたのは、フランス語で「 20 」は「ヴァンvingt 」といい、ワインをあらわす「ヴァンvin」と発音が同じだから、という理由ですが、こんなことからも塩尻にはワインやフランス語に詳しいアイデアマンがいることがよくわかります。

長野県は今年の夏に銀座に発信拠点(ブランドショップ)を設けますが、塩尻市はそれに先がけて渋谷に塩尻ワインの店を出しており、最近は新しい料理のトレンドに合わせたワインレストランにリニューアルして好評を博しています。やることのセンスが秀逸で、しかも早いのにはいつもながら感心します。

「信州ワインバレー構想」では、長野県を「桔梗ヶ原ワインバレー」、「千曲川ワインバレー」、「日本アルプスワインバレー」、「天竜川ワインバレー」という4つの「ワインバレー」に分けて、それぞれが特色を生かした活動を積み重ねながらワインの生産とワイナリーの数とワインの消費量を増やし、長野県を名実ともに日本一の「ワイン県」にすることをめざしています。昨年は東京・原宿で開催した「NAGANO WINE FES」も成功し、県内でもしだいに多くの人がワインに関心を抱くようになりました。が、構想はまだまだスタートを切ったばかり。まずはそれぞれのワインバレーを巡り、どの地域でどんなことがおこなわれているのか、それぞれのワインバレーはなにをめざしているのか、現地の人たちと意見を交換しながら、NAGANO WINEの将来を考えてみたいと思います。

 

シンポジウムでは、テレビでお馴染みの森田正光さんと私で掛け合い漫才のようなトークを展開しました。

シンポジウムでは、テレビでお馴染みの森田正光さんと私で掛け合い漫才のようなトークを展開しました。

シンポジウムの後のワイン会には自慢の桔梗ヶ原ワインがたくさん。

シンポジウムの後のワイン会には自慢の桔梗ヶ原ワインがたくさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(KURA 2014年7月号)