Column[ 読みもの ]

日本のワインのこれからを考える 2019

2017年03月11日

近況報告(アカデミー・ろくもん・循環バス)

前回の更新から3週間になります。間が空いたのは、4月に出版する本の校正作業に追われていたのがおもな原因です。前回の連載ブログ(2015年)と違って、今回は日々の出来事を逐一報告するというより、少し大きなテーマについての意見を述べようと思い、まとまった時間が取れる機会を待つうちに先送りになってしまいました。

4月25日に新潮社から出版される予定の本は、ブリア=サヴァラン『美味礼讃』の翻訳です。フランスを代表する食通とされるブリア=サヴァランが200年前に書いたこの本は、岩波文庫から50年前に翻訳(上下2巻)が出て以来、ロングセラーとなっていますが、原著の構成にも難があり、訳文もいまとなっては古めかしく感じられることから、名前が有名な割に読んだ人が少ない古典です。それを私があらためて編集し直し、読みやすい日本語に翻訳して、詳細な解説を加えて1冊の単行本にしました。今回掲載した分量は原著の約三分の二ですが、それでも400ページを超える大部なので、校正にも時間がかかったのです。

以上はブログ更新遅延の言い訳ですが、ほかにもいろいろなことがありました。

千曲川ワインアカデミーの第2期が終了しました。5月からブドウ栽培ワイン醸造ワイナリー経営等について学んできた2期生25名が全課程を修了し、3月8日に修了式と卒業パーティーをおこないました。最後は例年通り、各自30分の持ち時間で「私のワイナリー計画:ブランド哲学とマーケティング戦略」というタイトルでプレゼンをしてもらいましたが、それぞれに1年間の勉強と経験と思索の結果があらわれた、個性に富んだ魅力的な計画を披露してくれました。もちろんまだスタート地点に立ったばかりですが、1年前は雲をつかむような夢だった計画が、いまは明確な目標となり、それぞれがその実現に向けて歩きはじめようとしています。彼ら彼女らのプランが実現する頃には、長野県と日本ワインの世界は大きく変わっていることでしょう。

しなの鉄道が、ワイントレインを運行します。しなの鉄道には「ろくもん」という水戸岡鋭治デザインの観光列車があり、軽井沢駅と長野駅を結ぶ食事つきのプラン(@¥13800~14800)は予約を取るのが難しいほどの人気ですが、今年から新しくワインつきのプラン(@¥12800)が登場します。午後遅く軽井沢駅を出発し、軽い食事とワインを楽しみながら、田中、上田を経由して戸倉まで。ワインは沿線の「千曲川ワインバレー」産のプレミアムワインがたっぷり飲めますから、ワイン好きにはかなりお得なプランだと思います。年間80本、春から秋はほぼ毎週運行されるそうです。カリフォルニア・ナパバレーのワイン列車のように、「ろくもん」ワイントレインが有名になるといいですね。

1月17日のブログで書いた「ワイナリー循環バス」は、今年も運行されるかどうか、まだ不透明な状況です。昨年は、長野県が国から下りた地方創生関連の交付金を経費に充当してくれたので4ヶ月間の運行(実証実験)ができましたが、今年は予算がありません。昨年は広域特区「千曲川ワインバレー(東地区)」の8市町村による連絡協議会が交付金の受け皿になったのですが、8市町村の中にはまだワイナリーがないところが多いので、循環バスのために予算措置をしようという動きはないようです。かといって、循環バスのルートにあたる小諸・東御・上田の各市にも補助金を出そうという考えはなさそうですが、一方、東御市には独自に市内循環バスを運行する考えがあると聞きました。軽井沢発着(または軽井沢・上田間連絡)のバスと、田中駅発着のバスが、うまく連携することになればよいのですが……

行政がからむ仕事はスタートが遅いのが難点です。2~3月の年度末は人事異動の時期が近いので役場全体がレームダック状態になり、3月末ギリギリに移動が発表になると、4月は事務の引継ぎで仕事が手につかず、ゴールデンウィークが開けてからようやく動き出すけれども、その時期に決めた施策が実施されるのは6月に入ってから……バスの運行計画は申請してから認可されるまで少なくとも2ヶ月はかかるそうですから、いずれにしても夏前の運行開始は難しそうです。

行政の仕事は、予算措置がなされていない施策は実行することができないのが原則です。だからやりたいことがあれば前の年からその経費を予算に組み込む必要があるのです。昨年の循環バスは実証実験なので、結果を検証するためには利用者からのアンケートを分析する必要があるとされ、その分析作業が信州大学に委託されたそうです。信大に問い合わせたところその結果はつい最近報告されたそうですが、それが次回の広域特区連絡協議会で発表され……もしそれで「結果良好、継続すべし」という結論が出て、仮にどこかの市町村が補助金を出すことになったとしても、それが予算化されるのは秋以降にはじまる次年度予算の編成から、ということになります。

願わくは、できるだけ早く正式な運行許可を取って、今年はなんとか資金をかき集めて秋からでも細々と営業し、来年度以降は安定した資金調達を実現して、春のシーズンから本格的運行がスタートできますように……。