Column[ 読みもの ]
日本のワインのこれからを考える 2019
2017年03月14日
原産地呼称管理制度の発足
2000年10月15日の長野県知事選挙に当選した田中康夫氏は、同じ物書きとしてたがいに知っている間柄だったので、知事に就任するとすぐに連絡があって、12月25日に私の自宅(ヴィラデスト)でテレビ対談をおこない、翌2001年から本格的な活動を開始すると、長野県の農産品をPRするアドバイザー役「あぐり指南」として協力を求められました。
私は「長野県の農産品をPRする」と聞いて、それならまず、その農産品が本当に長野県でつくられているのか、どこでどんなふうにつくられているのかを確認して、消費者に対して示さなければならない……と考え、「原産地呼称管理制度」が必要になるだろうと思いました。もうひとり「あぐり指南役」に任命されたソムリエ世界一の田崎真也氏も、田中知事から電話をもらったとき、すぐにそう考えたそうです。その点では田中知事本人も同じだったのでしょう、3人が揃って会った初会合で、長野県原産地呼称管理制度(NAC)を立ち上げることを決めたのです。
原産地呼称管理制度では、書類による審査で確認された県産の農産品について、官能検査(実際に飲んだり食べたりして味を評価する審査)を受けて合格したものだけを認定する、ということになっています。そのとき私は田中知事から「県産のあらゆる食材をすべて食べて味を評価してください」と言われて困惑したことを覚えています。
制度の立ち上げには、しばらく時間がかかりました。対象となる品目の選定、書類審査の手続きや官能検査の方法など、日本で初めての試みなので、何度も会合を重ねながら少しずつ詰めていきました。結局、品目はワインと日本酒からはじめることになったのですが、これはお手本となるのがフランスのワインに関する原産地呼称管理制度であったことと、酒類は原料の産地や製造の方法その他のデータがつねに税務署によって厳しく管理されているので、ゼロから書類審査をやらなくて済む、という利点があるからです。そうでないと、いちいち立ち入り検査をして事実を検証しなければならず、そんなことをしたら膨大な人件費がかかってしまいます。
手もとの資料によると、2002年9月2日に長野県原産地呼称管理委員会の発足を発表する記者会見がおこなわれ、2003年4月14日にワインの、15日に日本酒の、それぞれ第1回の官能審査がおこなわれました。これが、田中知事による県政改革のうち唯一現在まで残っている施策のはじまりでした。