Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2015年08月19日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート ⑨

いよいよ動き出す千曲川ワインバレー 

信州ワインバレー構想も、本格的にスタートして丸2年。昨年は青山のイベントスペースで開催されたNAGANO WINE FES が、今年は帝国ホテルの「光の間」を借り切っておこなわれました。さすがに日本を代表するホテルらしい華やかな雰囲気で、参加するワイナリーも大張り切り、ほぼ全社が揃ってブースを構えました。入場料は7000円で、最初はちょっと高いかなと心配していたのですが、蓋を開けたらあっというまに600人分の予約チケットが完売。ひとりあたりボトル1本分くらい飲める量のワインを用意したので、日頃からワインに親しんでいる人にとってはかなりお得な値段と受け止められたようです。

長野県では、昨年は伊那市に「伊那ワイン工房」が、東御市に「ドメーヌ・ナカジマ」がオープンしましたが、今年は塩尻市に「サンサンヴィンヤード」、大町市に「ノーザンアルプス・ヴィンヤード」が開業する予定。ヴィラデストの近くに建設中の「日本ワイン農業研究所アルカンヴィーニュ」も現在免許を申請中で、合計すると1年間に5つのワイナリーができることになります。

それから、通常の3分の1の生産量(2000リットル)でも製造免許が取得できる「ワイン特区」も、2008年に東御市、2011年に高山村が取得した後、「信州ワインバレー構想」のスタートとともに勢いづいて2013年に坂城町、2014年に山形村、2015年には塩尻市と上田市……が続々と名乗りを挙げ、今年に入ると小諸市も特区申請をしたことが報道されました。

とくに、東御市に隣接する上田市と小諸市がワイン特区になると、坂城町までが一気につながるので、それらを「千曲川ワインバレー特区」として合体する構想が現実のものとなってきます。おそらくこの広域特区には、いずれ立科町や千曲市も加わってくるのではないでしょうか。点から線へ、線から面へとワイン特区が広域化することによって、東御市からはじまった千曲川ワインバレー東地区における小規模ワイナリーの集積は、さらにスピードを増すものと思われます。

基盤ワイナリー建設中

さて、建設中のワイナリー「アルカンヴィーニュ」について報告しなければなりません。これは本レポートの第3回で、「新規就農してワインぶどうの栽培をはじめた人たちが、そこに収穫したブドウを持ち込んで醸造できるワイナリーと、そこで実際の経験を重ねると同時に関連するさまざまな知識や技術を学ぶことのできるワインアカデミー。その両輪が揃うことによってはじめて、集積する小規模ワイナリーを支える態勢ができる」と紹介したものですが、その建物がだいぶ完成に近づいてきました。農水省の交付金を受ける国庫補助事業なので、年度内の完成が義務づけられており、一時は工事の遅れを危ぶんだのですが、なんとか突貫工事でギリギリ間に合いそうです。

建物は2階建てで、1階が醸造工場、2階が試飲販売のスペースと、ワーキングルーム、事務所などになっています。傾斜地に建っているので、高いほうから入る場合は2階が入口に、低いほうから入る場合は1階が入口になります。1階入口はスタッフが出入りする工場の入口、一般のお客様が出入りするのは2階の正面玄関。この構造は、ヴィラデストワイナリーと同じになりました。

1階の工場のほうは、建物の工事が完了した後に醸造機械を搬入し、それらをすべて審査確認した上で問題がなければ果実酒製造免許が下りる……という段取りなので、現在はまだ免許申請中。一連の手続きが順調に進むことを願っています。

2階のほうは、正面玄関を入ったところがテイスティングラウンジ。正面に試飲と販売のためのカウンターがあり、右側にはワインを展示するセラーと、ワイン関係の書物などを並べた本棚があります。本は販売しませんが、入場者が自由に読めるようになっています。壁にはワインづくりの工程を説明した図を掲示するなど、試飲をしながらワインに関する勉強ができる、ミュージアムのようなデザインにしたいと思っているところです。

この施設は「ワインを製造販売するための施設」であるというのが交付金支給の意味づけなので、ワインの販売促進のための活動は自由にやってよいが、「アカデミー(学校)」であったり「ミュージアム(博物館)」であったりしてはいけない、とされています。が、私たちは来場するお客様たちにワインづくりのあれこれについて知ってもらうことは販売を促進するための重要な仕事であると思っているので、問題のない範囲で資料展示などをおこなうつもりです。アカデミーについても、年間200時間まではおこなってよい、という許可をもらいました。

アルカンヴィーニュという名前

今回のプロジェクトのために、私は新しい会社を立ち上げたのですが、その名前は「日本ワイン農業研究所株式会社」といいます。千曲川ワインバレーだけでなく、日本ワイン全体の躍進のために役立ちたいと考えての命名ですが、英訳すると“JAPAN WINE AGRICULTURAL RESEARCH  CENTER”となり、略してJW-ARC。「研究所」はINSTITUTでもよかったのですが、あえてRESEARCH CENTER としたのは、ARCとすることで「ARC=アーチ(弧)」という意味が生まれるからでした。ワインをつくる人と飲む人とが連なる、一本の弧。人と人とがワインを通して繋がる、長く伸びたアーチ……。

計画の当初から工事中まで、新しいワイナリーの名前は「アカデミーワイナリー」とか「千曲川ARCワイナリー」とか呼んできましたが、いろいろ考えた末、「アルカンヴィーニュ」と名づけることにしました。

空にかかる美しい虹のことを、フランス語では「アルカンシエルARC‐EN‐CIEL(空にかかるアーチ)」といいます。その「空CIEL(シエル)」を「ブドウVIGNE(ヴィーニュ)」に代えて、「アルカンヴィーニュ ARC‐EN‐VIGNE(ブドウが繋ぐ人のアーチ)」。造語ですが、いつかは人びとに愛される名前になることを願っています。

帝国ホテル「光の間」でおこなわれたNAGANO WINE FES は大成功。

帝国ホテル「光の間」でおこなわれたNAGANO WINE FES は大成功。

ワイナリーの2階は木造で、住友林業の施工です。

ワイナリーの2階は木造で、住友林業の施工です。

 

 

 

 

 

 

(KURA 2015年3月号)