Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2015年12月01日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート ⑰

軽井沢タウンミーティング

秋たけなわ、ワイナリーにとっては「収穫」と「仕込み」のシーズンですが、今年はワイン関係の催しが例年になく多く、私はあちこちに出かけてワインバレーの話をし、おおぜいの人とワインパーティーで盛り上がって、もっぱら将来の夢を語ってさまざまな企画を「仕込んで」います。が、いつになったら「収穫」があるのか……。9月26日には、軽井沢でタウンミーティングがありました。タウンミーティングは知事も出席して地域の問題を県民が議論する場として各地で開催されているものですが、今回は軽井沢と千曲川ワインバレーの関係について話をするようにと言われて参加しました。

私は東御市に移住する前、軽井沢町に7年間、御代田町に1年間住んでいました。当時の軽井沢町の人口は1万5000人でしたが、いまは2万人を超えています。新幹線の開通(1997年)で東京から1時間という近さになり、別荘族に代わる新規住民が増えたからでしょう。今年から新幹線が金沢まで延伸したことで、首都圏だけでなく北陸からの観光客にとっても、長野県の玄関口としての軽井沢の重要性はますます高まっています。

タウンミーティングでは、まず阿部知事が県の施策と未来構想について語り、藤巻軽井沢町長が、サミットの交通大臣会議を契機に、これまでも取り組んできた国際会議都市としての発展に向けていっそうの努力をすると宣言しました。3番目に指名されたのが私ですが、私の話は持ちネタの少ない落語家のようなもので、どこへ行っても「ワインバレー」の話ばかり。でも、この日は町づくりや観光行政の関係者、軽井沢に別荘をもつ投資ファンドの運営者や外資系の企業家など、有力者がたくさん集まっていたので、軽井沢との関係に的を絞って、以下の3つの計画の実現に力を貸してほしいと訴えました。

リアルポータルサイト

私たちは、軽井沢に滞在する人、あるいは観光にやって来る人たちに、小諸から上田へと続く広域道路「浅間サンライン」の素晴らしい眺めを楽しみながら、千曲川ワインバレー東地区を訪ねてほしいと思っています。そのためには、まず軽井沢の町の中に、この地域のワインのブランドを一通り取り揃えた、小さなショップ兼ワインバーをつくりたい。ワイン観光情報を紹介するインフォメーションセンターを兼ねた、いわゆる「リアルポータルサイト」として、軽井沢の住民にはそこで千曲川ワインバレーのワインを知ってもらい(買って別荘や自宅で飲んでもらい)、観光に来た人たちにはそこで「ワイン街道」を巡るワイナリー観光の案内ができるように。それから、週末だけでもよいので、軽井沢と小諸・東御・上田方面を結ぶ、ワイナリー観光のためのシャトルバスの運行を実現したい。ワイン街道のインフォメーションセンターができたら、そこをシャトルバスの発着所にすればよいでしょう。

次に、「ワイン街道」の要衝にあたる御代田町の旧メルシャン美術館跡地に、長野県のワインと食と農業の姿を総合的に紹介する「シルク&ワイン“おいしい信州ふーど”ミュージアム」をつくりたい。「シルクからワインへ」という桑畑からブドウ畑へとつながる自然と人間のかかわりと、食と農、ワインと食卓をテーマに掲げた、レストランやマルシェのある楽しいテーマパーク。軽井沢からワイン街道を経由して長野県に入ってくる観光客のために、「千曲川ワインバレー」の成り立ちと、「ワインのある食卓」にのぼる信州の豊富な食材を知ってもらいたいのです。実現すれば、この地域と長野県の観光の発展に大きく貢献する、有意義な事業になることでしょう。

タウンミーティングのあとはワイン会となり、地元のワインを飲みながら大いに盛り上がりました。それなら軽井沢の駅前によい場所がある、と不動産関係者がいえば、だったら東京駅の駅ナカにアンテナショップをつくりましょう、そうすれば東京から軽井沢経由でワイン街道まで1本に繋がる、と投資銀行の責任者が提案する。またある人は、あの美術館の跡地には財界の某超大物が関心を持っているから、私財を投じて自分の名を冠したミュージアムをつくるかもしれない、と口を挟む……。ワインを飲みながらの会話では、いますぐにでも全部が実現しそうな勢いでしたが、話で盛り上がるのとその話を実行するのとは大違い……であることは、これまで何度も経験してきたことなので、過大な期待は抱きません。が、こうして多くの人たちの関心を喚起していくことがいつかはワインバレーの発展につながると信じて、これからもあちこちで話を盛り上げたいと思っています。

夜はお洒落なワインバーで

ひさしぶりに軽井沢に出かけるのだからと、ミーティングの前後に町内のワイン関係の店を訪ねました。昼食は、ハルニレテラスの「セルクル」で。土曜日とあって、たいへんな人出です。この店はワインショップを兼ねていて、世界のワインに混じってリュードヴァンやマンズワインなど地元のワインが並んでいます。近くでワインがつくられていることをこの店で知って「ワイン街道」のほうへ足を伸ばす人もいるそうですから、ここもひとつのリアルな「ポータルサイト」として機能しているといえるでしょう。

ミーティングの会場へ向かう途中、千ガ滝の「あらき」酒店に立ち寄りました。いかにも日本酒の銘酒が揃っている雰囲気の酒屋さんに、一歩入るとワインがいっぱい。日本ワインも並べられています。ちょうど店番に立っていた上品な奥さんが、「息子は日本酒が得意なの。ワインは私が担当」といって、何度も試験に落ちながら66歳でソムリエ協会のワインアドバイザー資格を取った話を聞かせてくれました。「売るからにはネ、やっぱり地元のワインを売りたいのは人情でしょ」という荒木久美子さん、素敵です!

ミーティングの後、夜の時間はワインバーで。駅前から旧道を入って東雲の交差点のすぐ近く、ニューアートミュージアムの前にできた「ルバート」は、「アカデミー・デュ・ヴァン」のベテラン講師として知られるオーナーの矢野恒さんがはじめた、軽井沢初といっていい本格的なワインバー。音楽の生演奏もあるお洒落な店ですが、リゾート地の夜はみんな別荘やホテルに引きこもってしまうのか、せっかくこんないい店があるのにそれほど利用されていない感じがしました。

その点、駅にもっと近い「ケビンズ・バー」は、ワンコインで立ち飲みができる気安さが受けて、近所で働く人や電車を待つ旅行者がふらりと立ち寄っていくようです。オーナーのケビン・マヤソンさんは、在日28年のアメリカ人。IT企業家から転身して軽井沢に来て6年、地域おこしの活動にも積極的にかかわっている人気者です。

なるほど、軽井沢のワイン人脈も多士済々。これならこの町が「ワイン街道」と繋がる日は近い、と感じながら、夜遅くまでワインをたくさん飲みました。

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ミーティングの後のワインパーティー。いかにも軽井沢らしい雰囲気です。

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「セルクル」(左)と「あらき」(中)のワインショップ。「ルバート」(右)は素敵なワインバー