Column[ 読みもの ]
『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)
2016年08月25日
玉さんの信州ワインバレー構想レポート(26)
<田中と軽井沢に「ワインシティー」の拠点が>
前回の取材で高山村の山田牧場に泊まった晩、ベッドに入ると携帯に電話があり、うれしいニュースが飛び込んできました。伊勢志摩サミットの晩餐会のワインにヴィラデストのシャルドネが選ばれたという、新聞記者からの知らせでした。洞爺湖サミットのときは選考委員会から内定の通知があったのですが、今回はまったく寝耳に水。当日の晩に外務省のホームページで発表されるまでまったく知りませんでした。
サミットでは首脳の晩餐会やご夫人方の食事会などさまざまな会食があり、日本のお酒やワインが何種類も提供されますが、中でも注目されるのは、最初の晩に首脳たちが集う公式晩餐会(ワーキングディナー)のメインディッシュにどのワインが選ばれるかです。
それが今回は、黒鮑と伊勢海老の一皿にヴィラデストのシャルドネ(リザーブ)が、松坂牛の一皿にメルシャンのオムニスが選ばれました。オムニスは千曲川を挟んでヴィラデストの対岸にある椀子ヴィンヤードのブドウでつくられたものですから、もっとも晴れがましい二つのポジションを千曲川ワインバレー東地区のワインが独占したことになります。
すっかり勢いのついた東地区には、まだまだ報告すべきことがあります。
東御市の北東部・祢津にある御堂地区の荒廃農地を再生して約30ヘクタールのヴィンヤードをつくる計画が、いよいよスタートするのです。伐採の開始はお盆が過ぎてからだそうですが、すでに大きな区割りの案が示され、来年から一部が植栽可能となり3年後には全部が畑になる予定ということです。
苗木不足の問題もあるので全体のスケジュールは不明ですが、東京ドーム7個分の広大な畑でブドウの収穫がはじまれば、植栽から3~4年後には近くにワイナリーが建っていないと、そのブドウは地域外に流出することになるでしょう。地権者の同意や換地の手続きはデリケートな問題なのでじっくり取り組む時間が必要ですが、植栽から収穫まではあっという間(わずか3年)なので、ワイナリーを誰がつくるか、どこに建てるか、どんなふうに運営するか、いまから考えないと間に合いません。
そこで、日本ワイン農業研究所(アルカンヴィーニュ)では、市民や識者や関係者に呼びかけて、「東御ワインシティーの未来像」と題した連続シンポジウムを開催することにしました。市内にそんな大きなヴィンヤードができ、すぐそばにワイナリーが建ったら、観光の人の流れが変わるだけでなく、地域の経済に強力なインパクトを与えるはずです。それは決してぶどう栽培農家やワインメーカーだけに関わる話ではなく、東御市民の仕事にも生活にも、いや、東御市民だけでなく近隣の市町村も含めて、幅広い裾野に影響を及ぼしていくに違いありません。
ワイナリーの建設については、生産者が集まる東御ワインぶどう協議会や農協などの意見を聞きながら、行政が方針を示すことになるでしょう。そこは注目しながら見守るしかないのですが、それによって東御市が名実ともに「ワインシティー」となったとき、私たちにとっては、それがどんなものであることが望ましいのか。
ワイン産業の振興が地域の発展に直結することは間違いがないのですから、この問題については地域住民の全員に発言の権利があるはずです。行政と関係者だけの密室における協議によってではなく、広く市民に開かれた議論の中で「東御ワインシティーの未来像」が描かれるように、と願ってシンポジウムをはじめます。
サミットで世界の首脳に味わっていただき、日本にもこんなおいしいワインがあるのだということは、認識してもらえたと思います。もちろん日本でもいま「日本ワイン」がブームのようにいわれており、一部には熱狂的なファンも生まれています。が、肝心の足もとでは、まだ地元のワインを飲んだことがない人がいっぱいいるのが実情です。
「このあたりで良いワインがつくられていることは新聞で見て知っているけど……どこへ行けば買えるの? どこへ行けば飲めるの? 私、ワイン飲んだことないんだけど」
……というのが、大多数の東御市民であり東信地区の住民なのです。
この地域を本当の「ワインシティー」にするには、地元の人にワインに親しんでもらわなければいけません。そのためには、地域の中に地域のワインを揃えて売っているワインショップがあって、そこで説明を聞きながら選んで買うことができること、また、最初からフルボトルを買うのはハードルが高いという人には、そこで1杯だけ試飲して、ワインがどんなものであるかを知ってもらうことのできる場所が必要です。
それまでワインを一度も飲んだことがない人でも、気軽にワインを飲むことのできるカフェか食堂が近所にあれば、友だちに誘われて入ってみて、おつきあいで1杯飲んでみたらおいしかった……というようなことからワインを好きになる人が、本当におおぜいいるのです。
そういう場所をぜひつくりたい、と考えていたら、去年の秋から思いがけない方向に話が進んで、しなの鉄道の軽井沢駅構内にあった廃業店舗と、田中駅に近い農協の遊休施設を活用して「ワインポータル」として再生するプロジェクトが、両方ともこの夏ほぼ同時に実現することになりました。
ワインポータルというのは、インターネットで言うポータルサイトのような、そこへ行けば地域のワインを買うことができ、試飲することができ、料理と合わせて味わうこともでき、ワイナリー観光の情報も得られる総合的な玄関口(ポータル)のような場所(サイト)を意味しています。長野県の入口のひとつである軽井沢と、東御ワインシティーの中心に位置する田中にワインポータルができれば、千曲川ワインバレー東地区に、日本人も外国人も同じようにお迎えする「玄関」が用意できることになります。
そこまでお膳立てができれば、あとは良いワインをつくるだけ。アカデミーの活動などで新しくこの世界に飛び込んでくる人たちを支援しながら、既存のワイナリーもさらに努力を重ねなければなりません。
いまヴィラデストでは、ヤンマー株式会社と協力して、ワインぶどう専用の草刈り機や消毒用車両の開発をすすめています。少量の農薬を能率的に、周囲にも本人にも安全に散布できる、できれば自動走行式の消毒車両。ブドウの樹の周囲に生える雑草をきれいに刈り取ることのできる草刈りアタッチメント……私たちのアイデアに、ヤンマーの技術陣がこたえようとしてくれています。カーデザイナー奥山清行氏がデザインしたかっこいいトラクターに牽引された最新式のアタッチメントに、自動走行するさまざまな栽培機器……想像するだけで楽しい、ブドウ畑の未来図です。
御堂の荒廃地はまだジャングル
シンポジウム「東御ワインシティー未来図」開催
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