Column[ 読みもの ]
『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)
2016年10月20日
玉さんの信州ワインバレー構想レポート(27) 【最終回】
< 東御市から広がっていくNAGANO WINEの世界 >
9月3日(土)、恒例の東御ワインフェスタが開催されました。今年で5回目。会場は昨年に引き続き、JA信州うえだ東御支所「ラ・ヴェリテ」前の広場です。
東御のワインフェスタというと、昨年もたしかその前も、開場寸前まで雨が降るなど天気に悩まされることが多かった記憶がありますが、今年は朝から一点の雲もない快晴で、またとないお祭り日和に恵まれました。
正午開始の予定でしたが、11時すぎには早くも行列ができ、12時を過ぎる頃にはテントの中は人でいっぱい。真夏のような日差しなので、暑さを避けて日陰に身を寄せながら、まずはよく冷えた白ワインからスタートです。
年々その品質と評判が高まっているNAGANO WINEの、新しい中心地として脚光を浴びている東御市でおこなわれるワイン祭りとあって、東京のみならず全国の日本ワインのファンからも注目を集めるようになってきた一方、回を重ねるごとに地元の住民の関心も高まって、会場ではさまざまな人たちがワイングラスを片手に交歓する風景が見られました。
ずらりと並ぶワイナリーのサービスブースに、地元のカフェやレストランなどが出店する食べもの屋台、大型トラックに設えた野外ステージ……と、仕掛けはおなじみのスタイルですが、今年の目玉のひとつは、SBC信越放送によるラジオの公開生中継が入ったこと。会場の一角にサテライトスタジオをつくって、人気アナウンサー中澤佳子さんと、吉本興業「あなたの街に住みますプロジェクト」の長野県担当、お笑いコンビ「こてつ」のおふたりが(ワインを飲みながら)軽妙なトークを繰り広げました。ワイナリーのメンバーや関係者も次々に出演したので、全県にアピールするとてもよい機会になりました。
もうひとつは、「ラ・ヴェリテ」のチャペルがレストランになったこと。そう、この連載でも取り上げてきた「ワインポータル」(地域のワインにアクセスするための玄関口)のひとつ、「東御ワインチャペル」が8月2日にオープンしたので、フェスタの来場客は野外だけでなく室内でもワインと食事を楽しめるようになったのです。
「東御ワインチャペル」の石原浩子さんは、シニアソムリエの資格をもつプロのサービスウーマンで、料理人の夫君とともにふたりでこの大きな店を切り盛りしています。小諸出身で、お母さんの実家のある田中は子供の頃から親しんだ懐かしい町。人生の後半は故郷のワインがさらに発展するお手伝いを、といって、東京の繁盛店をたたんで引越してきました。まだまだ地元では日常にワインを飲む人が少ない中で、大きなチャレンジに踏み切った勇気と決断に敬意を表したいと思います。
さいわい、この日は一日中よい天気。予報では夕方から雨模様ということでしたが、雲はどこかに飛んでいってしまいました。しかも、昼間は夏のように暑く、夕方からはぐっと気温が下がって涼しくなる、理想の「ワイン日和」になりました。暗くなるまで賑わった会場を片づけたあとの懇親会も、もちろんチャペルで。しなの鉄道の田中駅から歩いて数分のところにできたみんなのワイン食堂は、ワインを飲む人とつくる人と愛する人たちがいつも集まって楽しむ、それこそ「毎日がワインフェスタ」のような、ワインシティー・東御市の中心となっていく予感がします。
ワインポータルといえば、軽井沢駅の一角にも新しい店がオープンしたことを報告しなければいけません。こちらの名前は、「軽井沢オーデパール」。デパールはフランス語で出発という意味で、「オーデパール!」といえば「出発進行!」という掛け声になります。
軽井沢は、小諸から東御を経て上田に至る「ワイン街道」(浅間サンライン)の起点であり、しなの鉄道の沿線に広がる「千曲川ワインバレー」の玄関口にあたる場所。東京方面からも、北陸方面からも、新幹線でやってきて、最初に長野県の土を踏むのは軽井沢……という観光客も少なくありません。その場所にワインポータルを設けて、NAGANO WINEの「出発点」にしてもらおう、と考えての命名です。
軽井沢駅の北口、タクシー乗り場の真ん前にあるこの店は、しなの鉄道の旧プラットホームをそのまま利用しています。日本広しといえども、いや世界広しといえども、線路に囲まれた駅のホームがワインバー(レストラン)になっているところは珍しいはず。駅に立ち寄ったついでに楽しむもよし、列車を待つ時間を潰すもよし、待ち合わせに利用するもよし、サンドイッチなどはもちろん、お好みのNAGANO WINEを200CCだけ(ちょうど2杯分)テイクアウトすることもできるので、ここでワインと食べものを調達して、あとは車窓からの風景を楽しみながらピクニック・オン・ザ・トレイン……という人も増えるのではないでしょうか。
軽井沢駅と上田駅を、田中駅を中継点としてバスで結ぶ、ワイナリー観光バスの運行も9月から始まりました。今年度はまだ実証実験の段階なので、13人乗りの小型バスで各ワイナリーを巡回する試験的なコースで実施しますが、利用客が多ければ、来年以降、本格的な定期運行便となることが期待されます。
いずれはこの地域を「自動運転特区」にしてもらい、自動運転のクルマに乗ってワインを飲みながらワイナリーを巡る……のが理想ですが、そのためにも、たくさんの人に今回の実証実験バスを利用していただき、こんなにたくさんの需要がある、ということを示さなければなりません。どうか、よろしくお願いします。
最後に、アルカンヴィーニュから歩いて行ける距離にある大室山に、「千曲川ワインバレー分析センター」ができたことを報告します。これは信州大学の経法学部と繊維学部が連携して、もともと桑や胡桃の栽培研究などをおこなっていた繊維学部大室農場の施設に新しい機器を設置して、ブドウの成分分析をおこなうものです。今後は秋の収穫期に各圃場のブドウ果実の成分を詳しく分析し、収穫時期の見極めに活用できるようにする、としていますが、将来はさらに、各地の土壌や気象のデータと合わせてそれらの分析結果を照合することで、品種の選びかたや醸造の方法にも大きな示唆を与えることになるでしょう。
ワインポータル、ワイナリー観光バス、分析センター。世界のワイン産地ならあたりまえにあるような施設や機能が、少しずつ整ってきました。東御市と千曲川ワインバレー東地区の取り組みは、これから信州ワインバレーの各地域に広がっていき、いずれは長野県全体のスタンダードとなるに違いありません。
ヴィラデストのブース。隣は中棚荘の富岡父子です。
SBC「ともラジ」のサテライト。
東御ワインチャペルの石原さん
軽井沢オーデパール。店の前と駅のホームがテラス席に。
分析センターのお披露目