Column[ 読みもの ]

『玉さんの信州ワインバレー構想レポート』(KURA連載)

2015年07月16日

玉さんの信州ワインバレー構想レポート④

 

東御ワインフェスタ

9月6日と7日の2日間、東御ワインフェスタがおこなわれました。
今年で3回目となるこの催しは、リュー・ド・ヴァン、はすみふぁーむ、ヴィラデストワイナリーという市内のワイナリー3社が立ち上げた「東御ワインクラブ」を中心に、賛同する地元の有志がボランティアで集まって催してきたものですが、実はその前の年にも市の主催で野外ワインパーティーがおこなわれているので、それから数えればワイン関連のイベントが東御市で開かれるようになってからは4年目、ということになります。

さいわい天気にも恵まれて、会場の東御市文化会館の駐車場スペースを使った広場には数多くの飲食店のテントとワインメーカーのブースが立ち並び、2日間で1000人を超える来場者で賑わいました。広場には大きなステージが設けられて、夕方からはバンドの演奏やトークショーがおこなわれましたが、来場者がその前に各ワイナリーなどの施設をめぐって楽しめるよう、最寄りの駅から市内を巡回してメイン会場までを結ぶバスを午前中から運行するなど、年々その規模が大きくなるとともに、イベントとしての体裁もととのってきました。

4年前の野外ワインパーティーは、東御市名産の生食用ブドウである巨峰をテーマにしたお祭りの片隅を借りて催したもので、生食用ブドウの生産者の一部からは「巨峰の祭りにワインが参加するとはけしからん」といってお叱りを受けたと聞きました。東御市は2008年にワイン特区を取り、それで市内に新しいワイナリーが2社できたのですが、その時点でもまだワイン産業の認知度は低く、ワインぶどうは「加工用ブドウ」と呼ばれて、生食用からは一段低く見られていたのです。それを考えると、この4年間の達成には素晴らしいものがあるといえるでしょう。

新しいブランドたち

フェスタには、市内のワインメーカー3社のほかに、マンズワイン小諸工場や坂城町の振興公社がワインを出品し、地元のオラホビールもこのフェスタの常連として参加しています。が、今年のニュースはなんといっても新規参入者のプライベートブランドが登場したことでしょう。

東御市を中心とした千曲川ワインバレーには、いま、自分でブドウを栽培したい、自分で栽培したブドウからワインをつくりたい、と願う人たちが続々と集まってきていることは前回も述べましたが、今年はそのうちの3人が、自分のブランドのラベルを貼ったワインをフェスタに出品しました。3人ともまだ自前の醸造施設を持っていないのでリュー・ド・ヴァンやヴィラデストに醸造を委託していますが、できたワインを引き取り、販売免許を取得して自分で売りはじめた、「未来のワイナリーオーナー」たちです。

東御市の鞍掛に自社畑を構える「ぼんじゅーる農園」の箕輪さんは、ワイン好きがこうじて飲み手から作り手になったお医者さん。夫婦ふたりで目の届く広さの畑で、ありったけの愛情を注ぎ込んで納得の行くピノ・ノワールを育てたいと、めざす方向ははっきり決まっています。今年の出品作<KURAKAKE ROUGE>はそのファーストヴィンテージです。

新規参入者のほとんどは、県外、それも多くは首都圏からの移住組ですが、地元で頑張っている未来のオーナーもいます。小諸の老舗旅館「中棚荘」の富岡さんは、マンズワインの契約農家として栽培をはじめたのですが、いまは独立をめざしてすでにオリジナルブランドのワインを旅館で提供しており、将来は旅館の一角かその近くに醸造場をつくりたいようです。

移住者たちからはじまったワインづくりの熱気は、しだいに地元の農家にも伝わりはじめ、また、それなら故郷に戻ってワインをやろうか、と考える地元出身者も増えようとしています。フェスタなどの催しが地元でのワインへの理解を深め、移住者だけでなく地元からも新規参入の手が上がるようになれば、この地域が新しいワイン産地として脚光を浴びる動きはますます加速することになるでしょう。

しかしながら、東御市とその周辺では、新しく畑をはじめたい人はたくさんいるのに、それに見合う農地が供給できないでいる、という問題があります。もともとこのあたりでは、平均10アール(300坪)程度の小さな農地をいくつも分散して所有する農家が多く、1ヘクタール(3000坪)以上の農地をまとめて取得(または賃借)することが非常に難しいのです。小規模ワイナリーが自立するために必要なブドウ畑の面積は約2ヘクタールといわれますが、最初からそれだけの面積が使える人はめったにいないのが実情です。

御堂の再開発プロジェクト

そうした要望に応えて、東御市では、市の東側の丘陵地帯に広がる荒廃農地を、今後ワイン用のブドウ畑として使えるように整備しよう、という計画が持ち上がっています。この一帯は、バブル期には何度もゴルフ場の建設用地として候補にあがったところで、丘のてっぺんまでを含めると全体で80ヘクタールくらいはあるのではないかといわれているのですが、そのうちでブドウの栽培に適した標高のところを30ヘクタールほど整備しよう、というプロジェクトです。

この荒廃農地の再生事業は、長野県の農業開発公社が農地中間管理機構として機能する県営事業としておこなわれることになったので、現在は、地権者の合意を取りまとめる一方、整備工事のための調査をおこなっている段階だそうです。実際に行って見ると、まだなにも手がつけられていない、まるでジャングルのような状態でした……。

今後、この土地はどのように整備されるのでしょうか。単なるブドウ団地として開発されるのか、それとも、コミュニティーワイナリーやイベント広場などが組み込まれた、他のどこにもないワインビレッジが生まれるのか。なにしろ30ヘクタールといえば、東京ドーム7個分に相当する大面積です。その開発整備のやりかたによっては、東御市のみならず長野県の観光地図が一変するような大事業になる可能性を孕んでいるといえるでしょう。

千曲川ワインバレーは、桔梗ヶ原ワインバレーのような古い歴史をもたない、まだ若い産地です。戦時中にはじめた小布施ワイナリーと50年近い実績を誇るマンズワイン小諸工場を除けば、個人ワイナリーの先駆者であるサンクゼールが創立24年、たかやしろとヴィラデストが約10年、あとは4年にも満たない若いワイナリーばかり。そして、これから続々とできるであろう新人ワイナリーの数々……。

こうした新しい産地が正しくブレークするためには、いまの段階で行政が積極的な支援を表明し、実行することがなによりも大切です。ニュージーランドでもオーストラリアでもアメリカでも、国や自治体がワイン産業の振興に真剣に取り組む姿勢を見せたところが、その後のめざましい発展を現実にしています。千曲川ワインバレーも、そろそろその段階に差しかかっていると見るのが妥当な認識ではないでしょうか。

東御ワインフェスタで登壇した新規参入メンバー。 すでに自分のブランドでワインを発売している。

東御ワインフェスタで登壇した新規参入メンバー。
すでに自分のブランドでワインを発売している。

御堂地区の荒廃地はジャングル化していた。 4年後にはきれいなブドウ畑になっている?

御堂地区の荒廃地はジャングル化していた。
4年後にはきれいなブドウ畑になっている?

 

 

 

 

(KURA 2014年10月号)