Column[ 読みもの ]

日本のワインのこれからを考える 2019

2017年01月08日

東御ワインチャペル

2016年5月に刊行した『ワインバレーを見渡して』の中で進行中のプロジェクトとして紹介した、東御市田中と軽井沢駅構内での「ワインポータル」計画が実現し、両者とも昨年8月初めから営業を開始しました。

東御市田中の「東御ワインチャペル」は、農協の遊休施設となっていた元結婚式場のチャペルに厨房を取り付けて、ワインレストランに改造したもの。東京でイタリアンの繁盛店を16年間経営していた夫妻が、ふたりではじめました。夫君がシェフで、奥さんがシニアソムリエの資格をもつサービスパーソンです。

奥さんの石原浩子さんは小諸の生まれで、お母様は田中の出身。人生の後半は地元に貢献できる仕事がしたいと、東京の店をたたんで田中駅の近くに小さな店を出す計画を立てていました。その過程で、結婚式場が閉まって使われないままになっていたチャペルが候補物件として浮上し、農協と交渉して借りることになったのです。

ふたりの老後の店なら、もっと小さなカウンターだけのワインバーでもよかったのですが、「千曲川ワインバレー」構想の役に立つことを考えたとき、いろいろな集まりにも利用できるほうがよいだろうと、敢えて大きなチャペルを選びました。使っていなかったとはいえ、きれいな状態のままで、いまでも結婚式ができそうな建物です。東御市にこんな店ができたら、将来のワインバレーの発展にとって、はかりしれないメリットがあるでしょう。

まだオープンして半年ですが、傍から見ても、経営は大変ではないかと思います。地元では、男たちが夜スナックなどへ飲みに行くのはふつうでも、家族や友だちで外食する習慣はほとんどありません。少しずつ存在を知った女性客が利用しはじめているようですが、大きな店なのでお客さんが少ないと淋しいし、かといって、いっぺんにたくさんお客さんが来るとふたりでは手が回らなくなってしまいます。いつも満員になるようならスタッフを雇えばよいのですが、その保証もないのに人件費を負担するのはリスクが大き過ぎます。

シェフのつくる料理は、はっきりいっておいしいです。東京のイタリアンの匂いがして、値段も心配になるくらいリーズナブル。でも、おいしいパスタのランチが800円でも、隣の農協の職員も、目の前にある市役所の職員も、食べに来てくれません。かといって、イタリア料理をコンビニ弁当並みに値段を落とすのは不可能です。農協の職員は300円でお弁当が食べられるそうですから、勝負になりませんね。

いちばん望ましいのは、20人くらいの会食(パーティー)の予約が、ウィークデーの夕方に入ることでしょう。シェフはひとりでも、前菜は冷たい料理を何種類か、メインディッシュは煮込み料理にショートパスタを添えたものなら(なんて勝手に考えてスミマセンが)、あらかじめ準備ができるでしょう。なんなら、大皿と大鍋を出しておいて、みんなで取り分けたって構いません。かえってパーティーはそのほうが盛り上がるかもしれないし。週に2回、コンスタントにそんな予約が入れば、だいぶラクなはずです。

誰かに30分くらい話をしてもらって、その後でワイン会。セミナーを開いても、勉強会をやってもいいでしょう。石原さんは県内でも数えるほどしかいないシニアソムリエの資格をもったワインの専門家ですから、地元で興味のある人が集まって、ワイン教室をやってもらうのもいいですね。そんなふうに地元の人たちに少しでもワインに親しんでもらうことが、店の経営にも、千曲川ワインバレーの発展にも寄与するのですから。

ふたりきりの店なので、店側でそういう企画を立てたり実施したりする手間は、おそらくないでしょう。誰か、手伝ってくれる人はいませんか? 他人事のはずなのに、改造にかかった経費を借金と家賃で返していくことを想像すると、他人事ではなくなってしまいます。せっかく「千曲川ワインバレー」のために、と一大決心をしてチャレンジしてくれたのですから、なんとかみんなで守り立てていきたいものです。

私も、月に1回くらい、チャペルで「サロン」のような集まりを開こうかな、と考えています。ワインの話でも、そうでなくても、面白い四方山(よもやま)話をしながら、料理を食べてワインを飲む、「玉さんの四方山サロン」というのはどうでしょうか。会費5000円くらいなら、20人くらい参加してくれる人がいるだろうか。