Column[ 読みもの ]
日本のワインのこれからを考える 2019
2017年01月12日
軽井沢オーデパール
軽井沢のワインポータル「軽井沢オーデパール」は軽井沢駅の北口、タクシー乗り場の前にあります。改札口を出て左側(アウトレットとは反対の方向)に進み、観光案内所の手前右にあるエスカレーターを下って、そのまま進んで公衆トイレの前を過ぎ、駅の建物が終わるところで右側を見るとそこにあります。店は「しなの鉄道」の(いまは使用していない)プラットフォームの上にあるので、駅構内……と説明するとかえってわかりにくくなるかと思って説明しました。
この場所では、10年くらい前まで、峠の釜めしで有名な「おぎのや」さんが「志(こころざし)」という店名のソバ屋さんを営業していましたが、「しなの鉄道」の廃線路(新幹線の開通とともに廃線となった軽井沢~横川間の一部)を再開発する計画が持ち上がり、それを機に閉店したということでした。ところが、リーマンショックの影響とかで算段が狂い、その再開発計画が着手寸前に頓挫してしまったのだそうです。きっと、開発計画に基いた全体の工事がはじまるときに、いっしょに取り壊すつもりだったのでしょう、店の内装もカウンターなどの造作はそのまま、厨房の備品だけ無理やり剥がしたような、取り壊し寸前の状態で残っていました。
私がこの物件を最初に見たのは、昨年の秋のことです。軽井沢で開かれたタウンミーティングでそのことを知り、案内してもらいました。建物はプラットホームから線路までをまたいでつくられた大きな空間で、最初に見た印象は、廃業した町工場のようでした。ワイン関連でなにか活用できませんかと聞かれたので、小さなシードルリー(シードル醸造所)ならできるかも、と答えたことを覚えています。青森にあるような、駅のシードル工場を思い浮かべました。
この空間には、すでに多くの人が視察に訪れていて、店をやりたいという人も何人かいたようです。が、線路のある土地には給排水設備がつくれないので、トイレは駅の公衆トイレを利用するしかないなど、面白い土地だが使い勝手が悪いということで、話がまとまらなかったようです(当然シードル工場は無理でした)。
実は、この段階から、いまの計画が生まれて、それが実現するまでには、時間的には半年くらいのものですが、その間に数限りないもろもろの出来事があって、とても説明できないというか、説明できても公表はできないような経緯もあったのでここでは省略しますが、結局、駅のホームの上の部分だけを活用して、小さなワインバー&ショップをつくることになりました。
軽井沢の駅前一帯の土地には、新たな再開発の計画があるそうです。10年ほど前に頓挫した「しなの鉄道」用地の再開発も含めて、こんどこそ間違いのない新しいプロジェクトが、東京オリンピック・パラリンピックが終わる頃には実現しているのではないかといわれています。ですから「軽井沢オーデパール」は、その開発工事が緒に就くまでの(とりあえず3年間と想定した)期間だけ、という契約で「しなの鉄道」から土地を借りました。出資と経営は、新しい開発計画(の一部)を担うであろうリゾート施設運営会社にお願いしました。
建物はできるだけ古いまま利用する、なるべくおカネをかけないで工事する、という方針で店をつくりましたが、放置されていたガラクタの処理や傷んだ建物の修繕からはじめたので、それなりの経費がかかり、おそらく3年間では回収できないと思います。が、これも「千曲川ワインバレー」の玄関口としての軽井沢にはぜひ必要な施設、ということで、各方面に無理を承知で協力をお願いしました。
スタッフも一からの募集でしたが、さいわい素晴らしいシェフが手を挙げてくれました。海外でも活躍した一流の料理人で、しかも白馬の出身という信州人。胡(えびす)さんという、本格的なフレンチでも、ちょっとしたワインのつまみでも、テイクアウト用のサンドイッチでも、なんでもござれの頼もしいシェフで、立ち上げのときの面倒な仕事からすべてこなしてくれました。
この店も、できて半年。やはり、相当苦戦しています。オープンは夏でしたがまだ知名度がなく、秋は天気が悪くて、せっかくつくったプラットフォームのテラスを気持ちよく利用できる期間がほとんどありませんでした。そして冬は……軽井沢全体が死んだようになる季節ですから来客を望むほうが無理でしょう。
それに、駅に来る人は急いでいるのでワインバーでゆっくりしていかないし、町の人や別荘住民は、駅には用がないのでわざわざ道を渡って来たりしない。だいたい軽井沢の別荘族は別荘の中で外国の高級ワインを飲んでいるので、駅までわざわざ日本ワインを飲みに行くのはよほど酔狂な人に限られます。これは軽井沢だけの問題ではなく、そういうワイン消費者に、日本ワイン・NAGANO WINE に興味をもってもらうようにするのが私たちの課題だと思っています。
本当は、列車に乗る前に立ち寄って、もちろん時間があれば飲んでいってもらえればうれしいですが、そうでなくても、ワインとサンドイッチをテイクアウトして、車内でピクニックを楽しんでもらうのが、私たちの狙いなのです。そのために、お好きなワインを200CCだけ、ペットボトルに詰め替えてテイクアウトできるようにしてあります。200CCといえば、ワイングラスに2杯程度。軽食のおともにちょうどよい量でしょう。
列車の中でもいいし、野外の公園でもいいのです。ワインをもってピクニック……というのはお洒落な楽しみで、もっと日本でもやる人が増えるといいのに、と思っています。そのための旅行用ワイングラスとか、ボトルキーパーとか、ワインピクニックセットとか、外国ではいろいろな製品を売っています。「軽井沢オーデパール」ではそんな商品も取り揃えて、旅や野外でワインを飲む楽しみを広げていきたいものです。まだ、旅とワインを結びつける考えは、日本ではちょっぴり時期尚早なのかもしれませんが、軽井沢ならそのくらいやってもよいのでは?