Column[ 読みもの ]
日本のワインのこれからを考える 2019
2017年01月17日
ワイナリー循環バス
昨年の9月から12月まで、千曲バスによる「ワイナリー循環バス」の実証実験がおこなわれました。軽井沢駅と上田駅を結ぶルートに13人乗りの小型バスを走らせ、途中、小諸駅、マンズワイン小諸ワイナリー、アトリエ・ド・フロマージュ、田中駅、リュー・ド・ヴァン、ヴィラデスト、アルカンヴィーニュ、上田市柳町通りのはすみふぁーむショップに立ち寄ります。まだ本数も少なく、時刻表にも工夫の余地がありますが、とにかく定時のバスが運行するだけで大きなインパクトがあり、12月中旬の最終バスまで利用客が絶えませんでした。細かい不満や注文はあっても、こうしたバスが運行されたこと自体にはみんな大賛成で、ぜひもっと充実したものにして続けてほしい、という声が圧倒的でした。
はじめは、電話で予約ができ、軽井沢駅(オーデパール)か上田駅(観光案内所?)で切符が買えて、小諸駅や田中駅でうまく「しなの鉄道」と接続し、丘の上のほうにあるワイナリーはバスの車内でガイド放送を聴きながら巡り、食事ができるところではできるだけそれぞれのランチタイムに合わせて発着する……というようなプランを希望したのですが、バスというのは実際に運行するとなるといろいろな制約があり、思ったようにはいかないようです。バスをどの車庫から出してどこに帰すか、とか、運転手さんのローテーションとか、それに、正式に乗車券を発行するには路線バスとして認定される必要があり、そのためには運行の日数も本数も大幅に増やさなければなりませんが、そんなことをしたら大赤字になってしまう。そうしたもろもろの条件の中での、実現可能な提案のひとつが昨年のケースでした。
昨年の運行は、県からの補助金を使った「実証実験」という位置づけなので、今年からいよいよ本格運行のスタートになります。これだけ大きな需要があるということがわかったのですから、「実証実験」の結果は「GOサイン」で、あとは、1年限りの補助金がなくなる今年から、どこがどれだけ経費を負担するかという(東京オリンピック・パラリンピックのような)話になります。いずれにしても、県と市町村とバス会社の「三方一両損」になるわけですが、乗客の負担も、昨年同様の「1000円乗り放題」で済むかどうか、再考の余地がありそうです。
昨年のケースでは、軽井沢発の便は、1日に1便、朝9時5分発のみでした。軽井沢からの客数がいちばん多いことを考えると、もう少し増やしたいところです。が、バス会社としては、軽井沢駅周辺の道路の混雑を考えると、貸切りならともかく、定時運行を約束するバスはなるべく出しなくないのが本音のようです。だとしたら、軽井沢駅から「しなの鉄道」に乗って小諸駅まで行き、そこからバスで山の上のほうにあるワイナリーを巡るようにすればどうでしょうか。
東京から新幹線で軽井沢に来る人は、そこでまたローカル線に乗り換えるという発想がありません。が、ローカル線は朝夕の通勤通学時間を除けば車内はガラガラで(だから鉄道会社は困っているのですが)、車窓から見る風景も、暮らしの情景が身近に見えて新幹線より魅力的です。たとえば、ワイナリー観光のお客さんはまず「軽井沢オーデパール」に集合して(屋根つきのプラットホームにあるテラス席に40人は座れます)、パンフレットなどを渡してワインバレーの説明を受けます。それから「しなの鉄道」で小諸に着くまでの24分の間に、スマホで「千曲川ワインバレー物語」を聴いてもらうのはどうでしょうか。出発前に受信専用のスマホとイヤホンを借りれば、電車の中で発信される音声情報を個人的に聴くことができます。
GPSの位置情報を利用して、その場所に来たらその場所の説明がイヤホンから流れる……という個人用の観光案内情報の提供は、軽井沢の町内ではすでに実用化されていると聞きました。日本語だけでなく中国語、韓国語などにもスイッチひとつで切り替えられるので、インバウンド客に好評のようです。終わったら専用スマホは返却するのですが、持っていても役に立たないのでそのまま持ち帰る人はいないとか。
ワイナリー循環バスでもこのシステムを採用するよう希望したのですが、実現していません。バスなら車内放送でもよいので個人端末をもつ必要はありませんが、専用のスマホとイヤホンを持つようにすれば、バスから下りてAワイナリーに向かうときにAワイナリーの説明が、Bワイナリーに向かうときはBワイナリーの説明が、それぞれタイミングよく流れます。美術館である作品の前に来るとその作品の解説が流れる……のと同じシステムです。そこまで説明してもらう必要はない、という人は、個人端末と同時に車内放送からも流れる「シルクからワインへ」の歴史の解説など、千曲川ワインバレーに関する基本情報だけ聴いてもらえばよいでしょう。
電車の場合、ワイナリー観光のお客さんが一般の乗客と混じって乗ることを考えると、車内放送では聴きたくない人に迷惑ですから、個人端末からイヤホンで聞くほうがよいと思います。このシステムを電車で採用した場合は、どこでも沿線の観光情報を電車の進行に応じて提供できるわけですから、地域に応じてまさまな情報を伝えるのに便利なツールとなるでしょう。
軽井沢から小諸までは電車に乗り、小諸駅からバスに乗り込みます。小諸でマンズワインを訪ねた後、山のほうへのぼって東御市のワイナリーを巡る。そこから田中駅に戻るもよし、上田駅まで行くもよし。これから数年の間にこの地域のワイナリーはさらに増えるでしょうから、いずれはバスで全部のワイナリーをまわることは不可能になります。そのときのために、バスを降りてからの二次交通システムを構築することを考えなければなりませんが、まずは定時運行の循環バスをいかに「しなの鉄道」とうまく連係させるか、都会から来るお客さんにローカル線の面白さをどれだけ感じてもらえるか、それが課題になるでしょう。
あとは、上田駅前にもうひとつのワインポータルをつくるのが喫緊の課題ですね。軽井沢と田中に拠点ができたのですから、上田にも当然必要でしょう。今回は少し長くなったので、この話は次回に。