Column[ 読みもの ]

日本のワインのこれからを考える 2019

2017年01月23日

タクシー・ウーバー・自動運転

「千曲川ワインバレー」のワイナリー観光の場合、クルマで行かないとすれば、新幹線と「しなの鉄道」を使って最寄の駅まで行き、そこからタクシーに乗ってワイナリーに行く、ということになります。公共の路線バスも一部に残ってはいますが役に立たないのでやむなくタクシーに乗るわけですが、タクシーは料金がかさみます。たとえば上田駅からヴィラデストまでは正味20分あまりで行きますが、信号の少ない田舎道はどんどんメーターが進むので(東京なら交差点ひとつ曲がるだけで20分かかることも珍しくないのに)料金は4000円以上になってしまいます。ちなみに軽井沢駅からヴィラデストまでタクシーに乗ると、1万円以上かかるようです。

上田駅から「しなの鉄道」に乗って(ワインチャペル近くの)田中駅まで来れば、ヴィラデストまでのタクシー料金はその半額くらいになりますが、こんどは駅前にタクシーがいない。営業所に電話をすれば来てくれるようですが、去年まで駅前にあった上田電鉄の営業所がなくなってしまったので、待機しているタクシーをめったに見かけなくなりました。

4人でまとまって行動するなら、ふつうのタクシー料金を支払っても、うまく計画を立てればそこそこの出費で済みますが、いったん乗り捨てると次のタクシーを呼ぶのに時間がかかります。貸切りの観光タクシーならずっとチャーターできますが、料金が問題でしょう。テイスティング料金を含んだワイナリー巡回タクシーといった試みもおこなわれており、1人でも予約できるのは便利ですが、どうしても行動の自由は制限されることになります。

ワイナリー循環バスが本格的に運行されることになっても、当分のあいだ、運行は土日祝日に限られるでしょう。逆に、ゴールデンウィークやお盆休みなどは道路が混雑して、軽井沢発着の定時運行は不可能になるかもしれません。やはり、循環バスのルートができたとしても、その先の二次交通手段が必要になります。また、遠方からマイカーでやって来るお客さんも、どこかで自分のクルマを置いて、そこを起点に小さなワイナリーを効率的に巡ることができる交通手段があれば利用する人は多いでしょう。

アカデミーの卒業生もそうでない人も合わせると、「千曲川ワインバレー東地区」だけでも、すでにブドウを栽培していて、これから2~3年のうちにワイナリー建設まで漕ぎつけそうな人たちが、少なくとも5~6人はいます。軽井沢から上田までの範囲に限定しても、循環バスのルートに入りそうなところに3軒くらいは新しいワイナリーができるでしょう。したがって、遅かれ早かれ1つのルートで全部を巡ることはできなくなります。

新幹線や「しなの鉄道」の駅から、あるいは循環バスの停留所から、さらに足を延ばして複数のワイナリーを訪ねるための、二次交通システム。いまのうちからその準備をしておく必要がありますが、その場合、狭い範囲をこまかく動く必要があるので、いちいち遠くの営業所からふつうのタクシーにその都度来てもらうのでは効率が悪過ぎます。その点では、タクシーだけでなくその地域に住んでいる人も自分のクルマを使って同様のサービスができる「UBER(ウーバー)」のほうが便利です。

このUBER(ウーバー)という「一般人が自分の空き時間と自家用車を使って他人を運ぶ仕組み」は、白タクの規制との兼ね合いが問題で、タクシー会社との調整も必要になりますが、すでに東京都をはじめいくつかの自治体が試みをはじめています。こうした一般人による配車サービスは、全国の田舎で問題になっている、過疎地域におけるお年寄り(買い物弱者・生活弱者)の移動手段を確保するひとつの有効な方法として注目を浴びているので、今後、ウーバー方式の「ライドシェア(相乗り)」を可能にする規制緩和の流れは急速に進むものと思われます。

「しなの鉄道」の駅から、あるいはワイナリー循環バスの停留所から、スマホのアプリで配車を頼むと、近くに住んでいる登録ドライバーが自分のクルマでやってくる。会社は定年退職したがまだ元気な人、手が空いている時期の農家の人、移住してきたワイングロワー……いろいろな人が来ると思います。みんな地元に詳しい人ですから、地元ならではのディープな情報が聞けるでしょう。ワイナリー巡りの途中で自分の野菜畑を案内してくれたり、知り合いのリンゴ畑に寄ってくれたり……乗り合った縁で、思いがけない新しい交流が生まれることもありそうです。

そんなふうに、都会より田舎のほうがライドシェアは新しい可能性を秘めているように思えますが、実現にたどりつくにはまだ紆余曲折がありそうです。団塊の世代が一定数生き残っている古い集落では、当面は外部からの応援に頼らなくても昔ながらの互助システムが機能するので、新方式を導入するタイミングが難しいかもしれません。が、ある段階で一挙に過疎化が進むと、こんどはライドシェアを導入しようにもドライバーのなり手を確保することさえ難しくなることが予想されます。そのあたりの事情は都市部からの距離などそれぞれの地域の条件によって異なると思いますが、都市を含めた地方全体の人口減少がさらに進むことを考えると、この問題の最終的な解決には、本命の「完全自動運転車」の登場を待たねばなりません。

完全自動運転のクルマを過疎地対策に活用することは、すでに政府がその姿勢を示しています。自動運転システムの技術的な進歩の速さを考えると、その時代は私たちが想像するよりずっと早くやってくるような気がします。