Column[ 読みもの ]

日本のワインのこれからを考える 2019

2019年08月23日

キツネ臭の壁

「世界ではヴィニフェラ属以外のブドウ品種からワインをつくっている国はほとんどな
い」。以前そう書きましたが、その理由は、アメリカ系のブドウや野生のヤマブドウには、
独特の匂いがあるからです。アメリカ系のラブルスカ種には「キツネ臭」と呼ばれる強い
匂いがあることは述べましたが、同じくヤマブドウにも野生的な強い匂いがあり、どちら
も伝統的なヴィニフェラ・ワインの愛好者には受け容れ難いものなのです。

ラブルスカ種の「キツネ臭」は、ラブルスカ種を使用した交配品種にも受け継がれます。
同じくヤマブドウも、ヴィニフェラ種とかけ合わせても野生種の匂いが刻印として残りま
す。したがって、日本でつくられた多くのハイブリッド(交配)種は、多かれ少なかれ(少
なくともヨーロッパ人などにとっては)好ましくない香りを身に纏っているのです。

日本で生産量が多い「マスカット・ベーリーA」では、この「好ましくない香り」を軽減し
ようとする試みが懸命におこなわれてきました。その結果、栽培の過程でも醸造の過程で
も熟成の過程でもさまざまな工夫が積み重ねられ、いまではフランス人にも受け容れられ
るようになったと言われています。

日本と同じように雨が多く湿度が高いアメリカの東海岸地域では、在来のデラウェアなど
のアメリカ系品種とヴィニフェラ種をかけ合わせた交配種開発の研究が盛んで、最近では
「キツネ臭」のないハイブリッドもできていると聞きました。こうした研究の成果によっ
て、「キツネ臭の壁」は乗り越えられていくのでしょうか。