Column[ 読みもの ]

日本のワインのこれからを考える 2019

2019年08月30日

ヴィーニョ・ヴェルデ

ポルトガルの「ヴィーニョ・ヴェルデ」といえば、いまでは爽やかな白ワインが人気で世
界中に輸出されており、従来の在来種のほかにスペイン系のアルバリーニョ種などを導入
した高級品も増えています。が、20年ほど前までは、ポルトガル北部のミーニョ地方にま
で行かなければ飲むことができない、きわめてローカルな地酒でした。

ポルトガルがユーロを導入したのは1999年からですが、その前の数年間、私は毎年のよ
うにポルトガルを訪ねていました。ユーロになる前はとにかく物価が安く、レストランで
4人でフルコースを食べてワインを飲んで5000円。ホテルは超豪華な宮殿ホテルが1泊
6000円。笑っちゃうほど安かったのです。そしてポルトガルへ行ったときはかならずポル
トを起点にミーニョ地方の田舎を旅して、ヴィーニョ・ヴェルデを飲み歩きました。

「ヴィーニョ・ヴェルデ」は「緑の(若い)ワイン」という意味で、もともとは発泡性の
ある新酒のことを言いました。その頃は、ボトルに詰めたものがほとんどなく、酒場で樽
から注いでくれるのをその場で飲むか、量り売りで持参の瓶に入れてもらうしかなかった
のですが、どの店でも売っているのは白ばかりなので、ヴィーニョ・ヴェルデには白しか
ないのだと思っていました。

が、ミーニョ地方のある村で、男がふたり、陶製のジョッキに注いだ赤のヴィーニョ・ヴ
ェルデを飲みまわしているところに出会いました。私が「一口飲ませてほしい」と頼むと、
男のひとりがジョッキから小さなコップに注いでくれました。いまでもその瞬間の感覚を
覚えていますが、その赤が、「野生の香り」を持っていたのです。